可憐な非日常 | ナノ

「…結局、手がかりになりそうなことは分かりませんでしたね」

「……そうですね」



忍術学園の門をくぐりながら、ぼんやりと土井さんの言葉に相槌を打つ。

行きと比べると随分と空気が重く、同じ距離を帰ってきたはずなのになんだか長い道のりを歩いてきたような錯覚さえ覚える。

元々あまり期待はしていなかったが、本当に手がかりゼロとは…。政治も経済も生活様式も違うこの世界で私は生きていけるのだろうか…。

ただでさえ不審人物扱いされてるっていうのに、先行き不安だ…。



「はあ、どうしたもんかな…」とため息をついたその時、爆発音と怒鳴り声が聞こえた。



………何事?



土井さんも同じことを思ったらしく、丁度目の前を横切った深緑色の少年を呼び止めた。



「善法寺、どうしたんだ?」

「あ、土井先生。金楽寺からお戻りになられたんですね、お帰りなさい」

「あ、ああ、ただいま。それで、この騒動は一体?」

「あっそうだった!!実は不審な少年が突然学園内に現れて、今、文次郎と交戦中なんです!!」

そう言って、善法寺、と呼ばれた少年は再び駆け出して行った。

「突然学園内に現れて」って、変な言い方だな…。一体どんな奴が…。



善法寺君の言い回しを不思議に思い、駆けて行った方向を透視能力で見てみると、彼の言う通り潮江君が目にもとまらぬ速さで宙を飛び交っていた。



攻撃を受けているのは宙に浮いている少年。





………はあ??!!!



その人物を目視して、私はぎょっとした。土井さんの静止も聞かずに慌てて駆け出す。










「春ッ!!!」

「おー、棗!何でこんなとこに…。つうか、こいつら知り合いか?」
「それはこっちの台詞だっ!!何でアンタがこんなとこにいるのっ!!そもそもどうやってここに来たのっ!!何で戦闘になってるわけっ!?」
「ちょっ、いっぺんに言うなよ」



瞬間移動で目の前に現れた春の胸倉を掴みあげて揺らす。まさか、自分と同じように異世界に来た人間に会うとは思わなかったのだ。聞きたいことは山ほどある。

それが、敵対する組織の人間だとしてもこの際どうでもいい。



「あー、とりあえず最初の質問から答えると、何でここにいるのかは俺にも分からん。気が付いたらいつの間にはここにいて池に落ちてた。そんでいきなり襲われたから、とりあえず反撃した、以上!」



春は両手を上げておどけたように笑う。暢気な…。

念のために透視してみたが、私と同じように霧がかかったようになっていてここにくる直前の記憶は読み取れない。高超度超能力者は思考が読みにくいものだが、その読みにくさとも、透視プロテクトをかけている時の読みにくさとも違う。

取りあえず、掴みあげていた春の胸倉を話す。少し、落ち着いた。



「棗こそどうなんだ。ここ、どこなんだよ」

「んー、………なんちゃって室町時代?」

「…いや、真面目に答えろよ」

「至極真面目ですが」

「…」

「…」

「…マジで?」

「マジで」




沈黙が続く。空気が痛い。










「おいっ!!暢気に話してないで早くここから出せっ!!!」




地面から首だけ出している潮江君の叫びによってその沈黙は破られた。





ますます先行き不安だ…。











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