可憐な非日常 | ナノ

「それ以上言ったら本当にその首刎ね飛ばすからな、おっさん」



部分瞬間移動で胴体と切り離した頭(実際に切断したわけじゃないが)をつかみ、睨む春。

ジュンコちゃんにビビっていた時とは別人のように冷たい目をしている。



「春」

咎めるように名前を呼べば、顔は向けずに「なんだよ」とだけ返してくる。



「やめなさい」

「けどっ!」

「そんなことしたってしょうがないでしょ。超能力者が化け物扱いされることなんて珍しいことでもあるまいし」



私の言葉に何か言おうとして、結局何も言わずに口を閉じた。安藤さんの首を戻して、ヒュッと消える。着地点は屋根の上。



「すいません、あの子、短気なんで」



愛想笑いでごまかす。それでも、いきなり殺さなかっただけマシです、とは言わない。言ったら余計ややこしいことになりそうだから。

殺気が一層すさまじくなってしまった。



「先ほどの発言について尋ねても良いかのう?」

「…超能力者は貴重な存在です。私たちの世界には超能力について主に二つの見解があります。超能力を国の財産と考えるものと危険視して超能力排斥を訴えるものです。まあ、私たちの力は兵器も同然ですから、排除しようとする団体があるわけです」

「早蕨殿の力はともかく、お主の力に戦闘力はないように見えるが?」

「確かに、攻撃性はありませんが、情報戦においては圧倒的に有利に立てます。それこそ、皆さんが疑っていた間者という役割に於いて私のような超能力者は最適の人材と言えます。それに、心が読めるわけですから…」



そこで言葉を切り、太ももに装着しているホルダーから小さな棒を取り出し、ぶんっと振ると先が伸びる。特殊警棒である。投げられた手裏剣をはじき、右脇腹を殴打するが、さすが忍者と言うべきか、その攻撃はかわされた。

『ふんったわいもない』

『それはどうかな』

『なっなにっ?!』

突然脳内に響いた声に驚いたのか、一瞬動きに隙が出来た。その隙を狙って私は手の中に握った催涙スプレーを吹きかける。

「なっなんだこれはっ?!」

「ご心配なく。ちょっと皮膚や粘膜がひりひりして涙が出るだけの粉だから。3、40分、ええっと四半刻ほどでもとに戻るよ」

咳こみながら顔から出るもの全部出ている潮江君ににっこり笑う。序にさりげなく、煙が来ない位置に座る。室内で使うんじゃなかったな。ジュンコちゃんは催涙スプレーを使った途端に部屋から出て行った。



「とまあ、こんな風に、攻撃されそうになったら分かりますし、思考も読めるので、普通人、超能力を持たない相手なら十分に勝てます」



言いながら、カチカチと特殊警棒を畳んでホルダーに仕舞う。





「ふむ…、ところでお主たちはこれからどうするつもりじゃ?」

「とりあえず、働き口を探そうと思います。帰る目途が立たない以上、この世界で生活していかなければいけませんし、そうなれば、生活費や家賃を稼ぐ必要があるので」



接触感応があれば大体の道具は使い方が分かるし、達筆すぎる字も触れれば読める。仕事は、とりあえず、きり丸くんあたりに仲介を頼んでみようかな。



「ならば、椎名棗と早蕨春を忍術学園のお手伝いさんとして採用する!!」
















…………………………はい?





「「「「「「はぁぁあああ!!??」」」」」」



長い長い沈黙ののち、一同絶叫。精神感応で会話を中継していたので、春も屋根から降りてきた。

「学園長?!!」
「突然の思い付きをやっている場合ではないんですよっ!!」
「どういうつもりだよっ!!」

「どうもこうもない!お主たちの力は使いようによってはとても便利なものなのじゃろう。ならば、その力をこの忍術学園のために使ってほしいというわけじゃ。そのかわりこちらは衣食住を保証する。どうじゃ!」

「どうもこうもねぇよ!」と春が叫ぶ。「どうじゃ?」ではなく「どうじゃ!」と言うところが大川さんらしいというかなんというか。知り合ってそう経つわけじゃないけど、私はこの人のキャラを何となく把握した。



「ええいっこれは決定事項じゃっ!!」



その一言ですべての反論はねじ伏せられた。











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