「ふむ…なるほど」 お堂に通されて私はこの世界に来た経緯を和尚様に話した。勿論、私が超能力者であることや未来ではなく異世界から来たということは伏せて。 私の話を聞き終えると、和尚様は学園長からの文に目を通す。 「事情は大体わかりました。それで、椎名さんはここへ来たきっかけなど、本当に思い当たらないのですか?」 「はい、直前に何をしていたのかも覚えていなくて…。気が付いたら、学園の裏山にいたんです」 接触感応能力者が記憶をなくす、ということは全くと言っていいほどない。例えば、お酒を飲んで酔っ払ったとして、普通の人ならその時の記憶が飛ぶこともあるだろうが、接触感応能力者の場合は周りのものやその時一緒にいた人の記憶から自分がどうしたのか、その後の行動が分かるからだ。 だが、この状況ではまず、透視するものがない。 自分の記憶をたどってみてもまるで霧がかかったようにはっきりとしない。 「その…あまり、現実的な話ではないと思うんですが、神隠し、というようなことは実際に起こりうる事態なんでしょうか?」 「はっきりと、ない、とは言えませんな。世の中には人間の理解をはるかに超えたことが起こることもあるいは、あるかもしれません」 曖昧な言い方だが、はぐらかしているわけではないだろう。むしろ、科学で証明できることを妖怪や神様の仕業だと思われていた時代である。しかも、私がいた世界とは次元が違うのだから、そういうことがあったとしてもおかしくない。 「椎名さんの居たところではどうなんでしょう?そういう、人間とは違う存在がいる世界なんでしょうか?」 一瞬、「人間とは違う存在」と言われて超能力者という言葉が浮かんだが、違うと自分に言い聞かせる。 超能力は科学だ。私は、私たちは人間だ。超能力という、才能を持つだけの普通の人間だ。 動揺を悟られないように努めて冷静に答える。 「…いえ、所謂妖怪や神様のような存在を本気で信じている人は恐らくいないと思います。誰かが行方不明になったら、事故や事件に巻き込まれたと考えるのが普通ですね」 和尚様は顎に手を当てながら、考えるように目を閉じた。 私がこの世界へ来てから約3日。もし、元の世界でも同じ時間の流れなら、私は3日間行方不明扱いということになる。もしかしたら、事故や事件にあってそのまま命を落としているというケースも考えらえないわけじゃない。 ………いやいや、そんなことあるわけ、ない、よね…。 もし、そうだったら、私はもう二度とみんなに会えないということになる。 そんなの…、そんなこと、絶対っ…! 「…ん、…さん!、椎名さん!」 「…えっあっ、はい!」 「大丈夫ですか?顔色悪いですよ」 突然名前を呼ばれて、慌てて返事をする。顔を上げると心配そうに土井さんと和尚様が覗き込んでいた。しまった、随分考え込んでいたらしい。 「どうやらお役に立てることはないようですな。申し訳ない」 「いえいえ、とんでもないです。お手数をおかけしまして」 それから、学園長への返事を和尚様が書く傍らで世間話などで時間をつぶしながら、私たちは金楽寺を後にした。 |