可憐な非日常 | ナノ

のどかだなあ…。



春の陽光を浴びながら、土の匂いがする小道をのんびり歩いていた。遮るものがない空は、東京で見るよりもずっと広く感じる。風が吹くと森や林や畑の植物がそよそよと音を立てる。空を飛ぶ鳥や森の動物たちの声もする。

自然の声が聞こえる、そんな感じだなと思っていた。



普段散歩なんてしないし、この世界に来てからずっと空気が痛かったし、こういうのもたまにはいいな、などと呑気に考えて数時間前の自分に言ってやりたい。





これは、散歩とか、そういうレベルじゃないっ…!



「大丈夫ですか?」

「…なんですか、この階段はっ!!」



膝に両手をついて息を整えつつ、叫ぶ。土井さんは苦笑い。彼に当たっても仕様がないと分かっていても、つい目が尖る。

果てしなく続く階段は途方もない。終わりの見えない石階段は永遠に続いているのかと思わせるほどだ。土井さんによるとまだ半分も来ていないらしい。まじか。



「金楽時の和尚様は学園長の旧友で若い頃は腕の立つ優秀な忍者でいらっしゃったそうです。引退した後もその実力は確かなもので、この階段も修行の一つなんだとか」

「………一般人には優しくないですね」



運動不足の現代人には尚の事優しくない。瞬間移動や念動力での移動になれている超能力者には地獄かもしれない。そもそも瞬間移動や念動力が使えればこの長い長い階段を上る必要もないのだが。とにかく、私はあいにく念動能力者でも瞬間移動能力者でもないので地道に上るしかない。せめて、今が夏ではないことが唯一の救いだ。
















最後の一段を上り終えて私は門に背を預けて座り込む。きっつい。めっちゃきっつい。



「つっかれたー」

「頑張りましたね」



思わず出た言葉に土井さんは私の頭にぽんと手をおいて柔らかく微笑んだ。その笑顔が何となく、チルドレンと接する時の皆本さんと似ているような気がする。そう言えば、賢木先生もよくに任務終わりに「お疲れさん」と頭を撫でてくれたっけ。



「…私の頭ってそんなに撫でやすいかな」

「えっあっ!すみませんっ!」



独り言のつもりで言ったつぶやきをどうやら土井さんは拾ったらしい。忍者は耳もいいのか。慌てて手を放した土井さんは女性相手に馴れ馴れしいことをしたと思考がテンパっていた。そう言うつもりで言ったんじゃないのだが、説明するのも面倒なので私はこのまま息を整えることにした。









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