可憐な非日常 | ナノ

まだ朝食を食べていなかったらしいきり丸君は食堂へと向かった。ジュンコちゃんも朝ごはんを食べるために帰って行った。



「土井さんは朝食食べに行かないんですか?」

「私はもう食べました」

「…そうですか、ではなぜまだここに?」



いるんですか?という意味を込めて首をかしげると、土井さんはコホンと一つ咳払いをした。



「貴方は昨日言いましたよね、気づいたら学園の近くの森にいたと」

「ええ」

「そういう、いわゆる神隠しのようなことに詳しい方が学園長先生の知人にいらっしゃるので、お話を聞きに行こうということになったんです」



同行していただけますか?と尋ねる土井さん。本来なら私に拒否権はないだろうに、律儀な人だなぁ。



「分かりました。私も少しでも帰る手掛かりが欲しいですし」





「話は終わったかしら?」



音もなく天井から降りてきた山本さん。いい笑顔で手に着物と帯、それから化粧道具らしきものを持っている。あれ、なんか嫌な予感が…。土井さん、ヘルプ!………ってもういないしっ!!



「じゃあ、早速支度しましょうか」



語尾に音符が付きそうな勢いで山本さんは私の寝間着の襟元に手をかけた。










(hannsuke side)





昨日、緊急に開かれた職員会議。議題は勿論未来から来たと言う彼女について。

意見はさまざまだった。学園長は彼女は嘘はついていない、危害は加えるなとおっしゃる。くノ一教室の山本シナ先生も彼女は間者や暗殺者ではない、警戒心がなさすぎると言う。また、怪しい者は早々に排除するべきだという意見もある。しかし、一日観察してみても彼女は一向に怪しい動きを見せない。

神隠し、というのは一種の方便だが、彼女を外へ連れ出せば何かしら襤褸が出るかもしれない。と言うのは彼女の処遇に異を唱える先生方になげかけられた学園長のお言葉だ。

素性の分からない者を学園の外に出して何があるか分からない、もし逃げられて学園を襲撃されたら、という意見も出たが当然のごとく学園長権限でねじ伏せられた。



正直、彼女の言葉は嘘か本当か、図りかねるな…。



現在私は門の前で椎名さんの支度が出来るのを待っている。

彼女の服装や髪型、とても日本のものとは思えない。たまた子息の様子を見に来ていたしんべヱのお父上に確認したところ、あのような着物は南蛮でも見たことがないそうだ。

本人の言う通り少なくとも間者や刺客の類ではないのだろう。でなければ、伊賀崎孫兵のペットのジュンコがあんなにも懐くはずがない。五年生の竹谷の報告によれば、生物委員会で飼育するオオカミも彼女には何の警戒も抱いていないという。動物、しかも忍者に教育されている動物たちが警戒しないということは少なくとも忍術学園に害を及ぼす存在ではないというのが今のところの見解だ。しかし、彼女の言葉をすべて信じるかと言われれば肯定できないのが現状だ。それは、嘘はついていないが何か隠していることもあると感じるからである。忍者の勘、だろうか。



「土井さん」

「…!」



名を呼ばれ、振り返ると淡い青の小袖に身を包み、髪を結った椎名さんが少し疲れたように微笑んでいた。というか、その髪は…。



「…お疲れの様ですが、何かありましたか?」

「……いえ、その…、着物も化粧も慣れないもので…」



「女の人に身ぐるみはがされたの初めてだよ…」と彼女は小さく呟いた。な、何やってるんですかっシナ先生っ!!



「そういえばその髪もどうしたんですか?」



うっかりシナ先生に迫られる椎名さんの図を思い浮かべそうに慌てて話題を変える。彼女は頭に手をやってゆるく笑った。



「私くらいの年齢で髪が短いのは目立つって言われて、山本さんが付け毛を付けてくれたんです」



「髪を結ったのなんて生まれて初めてです」とはにかむ彼女は、年相応の、普通の女の人に見えた。









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