可憐な非日常 | ナノ




かちゃかちゃと洗い物の音だけが静かな食堂に響く。



洗い物をしながら、私は精神感応を展開する。

初めは疑念だった。様子を探りながらも平静を装っていた。そのポーカーフェイスは私たちが超能力者だと分かってからも続けられていたのだから大したものだ。まあ、表面上装うなんて私には無駄なことなのだけど。その仮面を落としたのが食堂での食満君と春とのやり取り。うつむいたまま顔を上げられないきり丸君。彼の様子は土井さんにはどう映っただろう。私もつい頭に血が上ってしまし、言わなくてもいいことを口走ってしまった。そこからは完全に敵視。けれど、「好きですよ」という言葉は思いのほか効果があった。同時に頭の中に流し込んだ皆本さんのイメージも手伝って、土井さんの思考は困惑がほぼ9割を占めるようになった。その困惑も一周回って冷静さに変わったようだ。私が催眠能力に目覚めると、土井さんのことが皆本さんに見えるようになっていた。まあ元々似ているとは思っていたし、そのことは別段不思議じゃない。もう、ある程度はコントロールできるようになったし。それに、あの部屋で皆本さんのことを説明して以来、なんか、接し方が変わったというか…。





「土井さん、いい加減食べてくださいよ」

「いや、だが、しかし」

「だがもしかしもないんです。さっさと食べてくれないと片付かないじゃないですか」





土井さんが凝視している皿には菜の花とちくわの炒め物がある。他の皿は綺麗に食べ終え、問題の小鉢にももうちくわしか残ってない。土井さんがちくわが嫌いだとは知らなかった。

なんだろう、このものすごく平和的な会話は…。私、多分この前まで抹殺リストナンバーワンだったと思うんだけど。



「私、朝食の片づけがするんだら事務室に行かないといけないんですよ。午前中に片付けときたい書類の整理があるんです。土井さんも授業があるんでしょう?」

「それはそうなんだが、」



皿の上のちくわを見遣り、すぐに顔を背ける。見るのも嫌とは、重症だ。



「駄目なものは駄目なんだ」

「かっこいい顔で言い切らないでください。そんなにちくわが嫌いなんですか」

「ちくわだけではなく、練り物全般が…」

「何処がちくわですか。よく見てください」

「…えっ!?」



そこには菜の花のお浸しがある。ちくわなんて一片のかけらもない。



「!?いや、確かに…??」

「早く食べちゃってください。授業に遅れますよ。ほら、ガッと一気に」

「…あ、ああ」



クエスチョンマークを浮かべている土井さんをせかす。土井さんも授業に遅れるわけにはいかないと思ってはいるのだろう。言われるままに小鉢を手に取った。不思議そうにしているものの、言われた通り、おひたしをかき込んだ。





口に入れた瞬間、両手で口を押える。



「吐き出しちゃダメですよ、ちゃんと飲み込んで」



土井さんは両手で口を押えて涙ながらに菜の花のお浸しを飲み込んだ。



「…な、なんで、しょっか、…と…、あじ…、ちくわ……」

「台詞が途切れ途切れですよ。相当嫌いなんですね」



催眠能力でちくわをお浸しに見せかけてみたが、味覚までは騙せなかったらしい。まあ、五感を騙すのはかなりのレベルが必要だし、要訓練と言ったところか。











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(視覚と嗅覚はまあ、何とかなるか…味覚を騙すのはまだ難しいかな)
(…じ、実験台にされた…!!)





急激に馴染んできました。












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