(syunn side) 振り向くと、爽やかな風が頬を撫でた。 「今、棗の声が聞こえたような気がしたんだけどな…」 けれど、特にその後はなんの音沙汰もなく、単なる気のせいだったかと、自己完結した。 手を頭の後ろで組んで、ぼんやりと空を見上げる。柔らかなオレンジ色と薄い紫のグラデーションがかかった空は怪しくも美しい雰囲気を醸し出している。曖昧で儚げで、夜へと向かうその空に俺は手を伸ばした。伸ばされた手はふらふらさ迷って、宙をつかむ。 「皆本さんってさ、太陽みたいだよね」 「なんだよ、唐突に」 「誰に対しても優しくて、強い信念を持ってて、まぶしいから。あ、あと名前も"光一"だし」 「ああ、確かにあの生真面目さは暑苦しいな」 「まあ、私たちみたいな人間には少しまぶしすぎるけどね」 「あんな性格だから、少佐とも馬が合わないんだろ。綺麗事ばっかり言いやがって」 「兵部さんだって、尊大な理想を掲げてると思うよ」 「…お前、命知らずだな。それ、少佐に言うなよ」 「さすがにそのままは言ってないよ。まあ、あの人なら私の本心は見抜いてたと思うけど」 「その口ぶりは、もう言ったんだな…。お前、よく生きてたな」 「まあ、ね。皆本さんとは正反対だし、兵部さんは夜って感じかな」 「夜?」 「うん。星はなくて、月だけがぼんやりと浮かぶ静かな夜。ほら、見た目もなんか夜っぽいし」 「なんだよ、それ」 そうやって俺たちは都会のビルの屋上で、小さく笑い合った。 棗と、以前、そんな話をしたことを思い出す。 国の機関に所属し、特務エスパーとして働き、普段はまじめに任務をこなしながらも、同僚や上司と笑ったり冗談を言ったりする。でも、ふとした拍子に表情がすっと消える。俺も人のことは言えないが、俺のように荒々しくなく、夜が世界を包み込むように、闇に染めるように、感情も表情もない人形みたいになる。 だから、俺はこう言った。 「お前は、夕闇みたいだな」 あの時、あいつはなんと返しただろうか。 ++++++++++++++++++++++++++++++ (おい!大変なんだ!早く来てくれ!!) (なんだよ、いきなり人の真正面に現れんな) (そんな事より、椎名棗が拐かされたんだ!!) (…はあ?かどわかす?) (攫われたんだよ!町はずれの森だ!今、三郎たちが森の中を探してる!アンタなら居場所が分かるだろ!!) (……はあ?!) |