可憐な非日常 | ナノ




竹谷という忍たまのガキに案内されてやって来た森の中で見つけた棗は、うつろな目でぺたんと地面に座っていた。

まるで生気が抜かれたような、人形みたいになっていた棗のそばには、死んだように動かない見知らぬ男が倒れていた。忍たまのガキと棗と同い年くらいの男が、棗から距離を取るように構えている。



「おい!どうなってる!」



忍たまの方が振り向いて叫んだ。それを無視して、俺は棗の方へと飛んで行った。すると、突然流れ込んだ来たイメージ。



冷たい目で見下す男。棗によく似た顔の女。綺麗に掃除されたリビング。暗くて狭い物置。でかくて立派な家。下世話な笑みを浮かべる若い男。苦悶の表情を浮かべる不良。東京の夜の風景。やたらと派手なベットがあるホテルの一室。様々な年代の裸の男。浅黒い肌。闇夜に浮かぶ月。紫とオレンジのグラデーションがかかった空。バベルの廊下。困ったように笑う皆本。溌溂と笑う女王。眼鏡を押し上げる女神。菓子を差し出す女帝。シンと静かな森。波の音が響く白い砂浜。オレンジと白と黄緑で整えられた部屋。翻る白衣。伸びてくる腕。そして、





"―――――よく頑張ったな"





「しっかりしろ!!!」



頭の中に響いた声をかき消すように叫んだ。流れ込んでくる様々なイメージが、棗のこれまでの人生を語る。今まで、はっきりとは聞いたことのなかった棗の過去は想像以上に暗くて、痛くて、重い―――。

俺は瞬間移動ではなく、自分の足で地面を踏みしめて一歩、また一歩と進む。





「おい!」



飲み込まれそうな思念の波に、心が竦む。



「棗!」



それでも俺は、必死で叫んだ。





パァンッ!!

思いっきり叩いた左の頬が赤くなる。棗はまるで壊れた人形みたいにゆっくりと前に向き直って、焦点の合わない目を見開いて、そのままゆっくり、ゆっくりと、

倒れ込んだ。



抱き起こした棗は糸の切れた操り人形みたいにぐったりとしていた。










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