本日は忍術学園ではなく、近くの町に来ている。きり丸君のアルバイトの手伝いだ。ちなみに春は相変わらず学園の人たちと追いかけっこ中。 「頼んだおれが言うのもなんですけど、ほんとに良かったんっすか…?」 「うん。この間のお詫びもかねて。それに、アルバイト、手伝うって約束したしね」 本当は外出は禁止されると思っていたから内職的なことを手伝うつもりだったのだけれど。 監視(金楽寺へ行ったときの土井さん)付とはいえ一応忍術学園の外に出られたからダメもとで大川さんに頼んでみたらあっさりOKが出た。まあ、また監視付だけど。 きり丸君の左側を歩きながら、後ろに意識を遣ると、3人くらいの忍たまがいる。 あの子たちは…、確か5年の…。…ああ、初日に天井裏に潜んでいた3人か。えっと、名前は、竹谷君と鉢屋君、それに不破君だ。 「きり丸君、人が多くなってきたね」 「はぐれないように手でも繋ぎますか?」 きり丸君は私を見上げ、ニコッと笑う。私の超能力のことを知ってなお、彼は変わらぬ態度で接してくれる。知られたくないこともあるだろうに、良い子だと思う。 「そこの坊ちゃん、いいバイトがあるんだけどやらないかい?バイト代は1両なんだけどね、ちょっとこの荷を運んでくれるだけで」 「!?やり、」 やりまーす!!!と言いかけたその口を慌てて塞ぐ。 「ちょっ、きり丸君!ストップストップ!!怪しいから!どう考えても怪しいから!!」 飛びつきそうになるきり丸君の手を慌てて引く。手を繋いでなかったら反応できなかったかもしれない。 飛脚風のお兄さんに聞こえないように目を銭にしているきり丸君を抑える。「すいません、私達急いでますので」お兄さんに愛想笑いを浮かべながら「ほら、アルバイトに遅刻しちゃうよ。そんなことになったら次から仕事くれなくなるよ」きり丸君をなだめる。 ちょっと守銭奴なところもあるけど、良い子、だと思う。 きり丸君を落ち着かせて、人混みをかき分けながら歩く。これだけ人でごった返していても、彼らは私たちをちゃんと見失わずに終えているようだ。さすが、卵といえど忍者、と言ったところか。 繋いだ手から、接触感応を展開する。 どうやら委員会つながりで不破君はきり丸君から私とアルバイトに行くことを聞いたようだ。そして、クラスメイトの2人とともに私の監視をしに来たと言うわけか。いや、3人の性格からして、持ちかけたのは鉢屋君かな。 「ところで棗さんの腕についてるそれ、なんすか?」 「ああ、これは、なんていうかお守りみたいなもんかな」 「お守り?」 私の右手首にはオレンジを基調としたシンプルで細身のブレスレット型のリミッターが揺れている。 首をかしげるきり丸くんに「そう、お守り」と頷く。超能力はフルに使えるしリミッターとしての役割は果たしていないけど、私が元の世界とつながる数少ない物だ。 まあ、私のはチルドレンのみんなと同じで主任の許諾によってロックが外れ全能力が解禁される仕組みになっているから、性質的にはESP錠に分類されるわけだけど。従来のリミッター同様、自分の意思で取り外しはできるけど、防火防水機能が付いているし、ちょっとやそっとのことでは壊れないようになっているので、日常生活を送る上で邪魔にはならない。 「金目のものっすかっ!!」 「うーん、どうだろう。オーダーメイドだし、貴重と言えば貴重だけど、高価なものかと言われると、分かんない」 またも、目を銭にするきり丸君に苦笑する。 無意識の超能力使用による不慮の事故や暴走を抑え、超能力者自身や周りの人間を守るためとはいえ、自分の力を他人に制限されるのはあまり気分のいいものではない。 それがたとえ、必要なことだと分かっていても。 正直、元の世界にいた時は、これがうっとおしいと思ったものだが、こうなってみると――……。 「今の私には一番大切なものかな」 「…一番、ですか」 「うん、大事な人たちと繋がる唯一の物だから」 「あの、この前の…」 「うん?」 「………やっぱ、なんでもないっす」 きり丸君は10歳にしては聡い。幼くして親を亡くしたからだろう。いや、愛してくれた両親を亡くしたから、か。 多分、きり丸君には私や春の気持ちは分からない。親に愛され、学校に行って、普通に友達がいる彼には。同じように私や春もきっと彼の苦労や悲しみを本当の意味で理解することは出来ない。あの人達と同じ血が流れているという事実に反吐が出ると思っている私たちには。 きり丸君はそれがきちんと分かっている。だから、無理に踏み込まないでいてくれる。私にも踏み込ませないようにしてくれる。 彼の頭にぽんっと右手を置いた。 『ありがとう』 ++++++++++++++++++++++++++++++ (…なんなんだあいつ) (さあ。でも、なんだか、) (悲しそうなカオ、だったな) (………くそっ、調子が狂う) |