可憐な非日常 | ナノ




(syunn side)



この変な世界に来て、4日目の朝。



「ふぁあ〜、…何やってんだ?」



欠伸を噛み殺しながら、すでに起きて何やら机に向かっている棗に声をかける。



「山本さんに要らない布もらったから、下着作っとこうと思って」



俺たちは室町時代にやってきた。室町時代のはずなのに、風呂場にはシャンプーやらリンスやらあるし、アルバイトだのサインだの横文字が普通に使われているし、実際の室町時代とはどうも違うようだが。とにかく、室町時代がベースと思われるこの世界では下着というモノがない。湯文字や裾除けと呼ばれるらしい巻きスカートタイプのものがこの世界では下着であり、クロッチのある下着がないのである。

棗曰く、ブラは百歩譲って晒を代わりにするから良いがパンツを履かないのは落ち着かないから嫌だ、らしい。いつ帰れるか分からない今、衣服は勿論下着の替えがないのは大変困るという棗の言い分はよくわかる。

まあ、俺としても隣にいる年頃の女がそんな格好だとよからぬ想像をしてしまいそうなのでその方が助かる。



「けどさ、どうやって作るんだよ。腰の部分とかゴムないじゃん。ミシンもないし」

「それはもう手縫いで頑張るしかないと思ってるよ。腰のところは紐パンにするか、ジャージみたいに腰紐入れようかと思ってる」

「あ、じゃあさ、俺のも作ってくんね?褌ってなんか窮屈でさ」



人に見られないとはいえ六尺褌というらしいこのスタイルはメチャクチャ恥ずかしい。あと、着脱が面倒。



「別にいいけど、これから食堂の手伝いだよ。そのあとは事務室でデスクワーク。正門の前の掃除もあるし、これは時間がある時に作ってるから出来るのに少し時間がかかるかもしれないけど…」



まあ、物が物だけに早く仕上げようとは思ってるけどさ、と棗は続けた。



「なあ、一日あればどれぐらいできそうなんだ?」

「んー、邪魔されなければ私のが5枚、春のが5枚かな。それくらいあればちゃんと洗濯もして着まわせると思うけど」

「なら、今日一日の仕事は俺がやる」

「えっ、………出来るの?」

「その不安そうな顔は何に対しての心配なんだ…。まあ、何とかする。飯は?」

「おにぎりでも届けてくれればいいよ。余計なトラブルは起こさないでね」

「棗こそ、あんまり無理すんなよ」



そう棗に声をかけて立ち上がる。その言葉に棗がびっくりしたような顔で振り返るが、結局苦笑しただけでほかのリアクションはなかった。

ここの連中が俺たちのことをどう思ってるのかぐらい想像がつく。

精神感応能力、接触感応能力を持つ棗は俺以上に具体的で心を抉るような感情や思惑が聞こえているはずだ。

一昨日は随分ぐったりとした様子だったし、昨日も忍たまを助けに行って帰ってきてから元気がなかった。

それに、毎晩、背中を丸めて泣くのをこらえながら眠りについている。そんなことをするのは多分天井裏にいる忍者たちに弱っているところを見られたくないからだろう。





"一人じゃないよ"



そう言って俺の心に語り掛けた棗。



俺はパンドラでこいつはバベル。

敵対する組織に所属する俺たちだけど、少なくとも俺はこいつのことを大事にしたいって思ってる。俺の心に最初に寄り添ってくれた奴だから。

この気持ちが友情か恋かはよくわからないけれど、こいつが傷つくのは見たくない。





棗のこと、甘いって言ったけど、俺も相当甘ちゃんだな…。



自分の思考に苦笑しつつ、俺は食堂へと向かった。





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(…睨んでないでさっさと取りに来やがれ!頭の上に叩き落とすぞテメーらっ!!!)

(…短気だな)
(口が悪い…)
(機嫌も悪そうだ…)











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