「君、大丈夫?」 落とし穴を覗き込むとそこにいたのは萌黄色の装束を着た少年だった。6年より色が鮮やかで次屋君と同じ装束なので、3年生だろう。 私の声で顔を上げて、少年の表情は一瞬で固まった。 『あの人は、孫兵や左近が言ってた…』 孫兵と左近って確か3年の伊賀崎君と2年の川西君か…。少なくとも良い話じゃないな…。 苦笑しつつ縄を下すと彼は登ってこようとはせず、無視を決め込んでいる。私が彼らにしたことを聞いて大分怖がっているようだ。 あんまり過激なことをしたつもりはないんだけどな…。 「君、早く上がってきたら?」 「…」 「いつまでもそこにいるわけにはいかないでしょ」 「…」 「おーい」 「…」 「はあ」『こんな敷地の端っこでほかの人に見つけてもらえるの?』 「へっ!?」『な、なにこれっ?!』 「テンパるのは分かるけど、とりあえず早く上がってきたら?その薬草の束、医務室に持ってかなきゃならないんでしょ?」 「なっなんで知って…!?」 「いや、視れば分かるから。ねえ、それより早く上がってきてよ。この縄、倉庫に返しに行かなきゃならないから」 それでも彼は無視を決め込んでいる。仕方ないな…。 「ねえ、お願いだからさっさと上がってきてよ。私、まだ仕事あるから。もし、私が君に少しでも変な事したら先生や先輩方に言って煮るなり焼くなり好きにしてくれていいからさ」 そこまで言えば少年はやっと縄を手に取った。12歳といえど忍者のたまご。私は力を込めて踏ん張っているだけで、彼は、壁面に足を掛け、登ってきた。 「怪我はなさそうだね。ここら辺一体穴だらけだから次からは気を付けて、」 「いつまでいる気ですか」 少年は私の言葉を遮って問いかけた。その目はとても真剣だ。 彼にとって忍術学園という場所は大切で、そこを見ず知らずの怪しい人間にひっかきまわされたくないという気持ちがありありと伝わってくる。 「…帰れるまで、かな」 へらっと笑うと少年はふざけんなと思いながらキッと私をにらんだ。 「別世界から来たとかいう人間が現れて、おまけに人の心を覗くような力を持ってて、下級生は怖がってるし、先生や先輩方はまるで戦の前のようにピリピリしてます。こんな状態が長く続くと迷惑なんです。貴方の事を警戒して授業に身が入らない生徒もいます。忍術学園がこんな状態になってしまったのは貴方たちのせいです」 「まあ、この世界において超能力が規格外なのは分かるけどね。不審者の1人や2人におたおたしているようじゃ、優秀な忍者とは言えないんじゃないの?ああ、まだ、忍者じゃないのか」 「あんたに何がっ」 分かるんだっ!!!という声はすんでで飲み込んだらしい。そんな風に顔に出しているんのでは、言ってしまったのと同じである。 少年は、うつむいていた顔を上げてもう一度私を睨んで去っていった。 『さっさと出て行け』 ++++++++++++++++++++++++++++++ (嫌われたもんだね〜) |