可憐な非日常 | ナノ




「…ちょ、七松君、ストップ!ストップ!」



私は七松君の背中を叩いて待ったをかけた。なぜそんなことをしたかと言うと私は彼に俵のように担がれているからだ。

何故だか私が彼らの委員会活動に参加することになっており、プリントを渡してさっさと事務室に戻ろうと思っていた私の目論見は見事に外れることとなった。

廊下を歩いていたところを拉致られたので、履物がないことを理由に断ろうとしたら履物を取ってくれば良いということになり、ならば履物を取ってくるふりをしてそのまま逃げようと思っていたら、七松君が「履物を取りに行かなくても私が担いで行ってやるぞ!いけいけどんどーん!!」と私を担いで忍術学園を飛び出したのである。



「なんだ?心配しなくても滝夜叉丸たちなら時期に来るはずだぞ」

「いや、そうじゃなくて…」

「七松先ぱーい!!」

「滝夜叉丸、どうした?」

「三之助がまた迷子になってしまったようなのです。今、四郎兵衛と金吾が周辺を探しています」

「そうか、では我々も探しに行こう!」

「ちょっ待って待って!取りあえず降ろして!」



また、いけいけどんどんと駆け出しそうな七松君に再び待ったをかける。

七松君は不思議そうにしながらもやっと地面に降ろしてくれた。



「手分けして探すのは効率が悪いからさ」



そう言って私は地面に手をついて、前方を見据える。接触感応と透視能力を展開して、次屋君を探す。










しばらくして、ここから3キロほど行った所をうろついているのを発見した。



「見つけた。反対側、山の中腹あたり。…って、ああっ!!そっちはダメっ!」



思わず叫んだ私に七松君と平君は怪訝な顔をした。



「ど、どうしたのですか!?」

「地盤がゆるくなっているところを滑り落ちたみたい。視た感じ大きな怪我はなさそうだけど、立ち上がらないところを見ると足を痛めたのかも」



そう説明しながら、次屋君の元へ急ぐ。走るのは七松君と平君だけど。



『金吾君、四郎兵衛君、聞こえる?』

『うぇえ!?なにこれっ!!?』

『頭の中で声が聞こえるっ?!』

『大丈夫、私です、椎名棗です。説明は後でするから。次屋君見つけたから、私たちも向かうからそこで合流しよう。いい?君らの居る所から西に真っ直ぐ山を降りてきて。斜面が急だけど滑らないように気を付けてね』



金吾君と四郎兵衛君に思念を送ってすぐに目的地に着いた。常人ならこの3倍は時間がかかるだろうに。大したものである。





七松君に降ろしてくれるように頼み、膝を折る。



「三之助、どうした?」

「すいません、足を捻ったみたいです」

「動かないで、じっとしててね」



彼は私に対して警戒心を見せていたし、触って暴れられては困るので一応言っておく。

次屋君は一瞬ビクッとしたもの、特に何を言うでもなく大人しくしていた。



「七松先ぱーい!滝夜叉丸先ぱーい!」

「次屋先輩はご無事ですかー!!」

「おおー!お前たち!よくここが分かったな!」



山を駆け降りてきた金吾君と四郎兵衛君に片手を上げて応じる七松君。「よくここが分かったな!」という台詞に2人して微妙な表情で顔を見合せる。

その様子に七松君と平君が何か突っ込む前に私が言葉を発してそれを封じる。



「軽い捻挫みたいだね。これくらいなら患部を冷やしてちゃんと固定して、治るまで動かさなきゃ大丈夫だと思うよ。誰か、水持ってない?」

「あ、それならぼくが!」

金吾君から竹筒の水を分けてもらいそれをハンカチに含ませる。普段は忍術学園に居るので手持ちのものはたいして持っていないのだが、ハンカチ、ティッシュくらいは女子としてのたしなみである。



あとは患部を固定するものだが、生憎それが出来そうなものは持ってない。

帯では細ずぎるし、何か他に…あ、そうだ!



帯を解き始める私に平君が慌てた様子で待ったをかけた。



「な、何をしていらっしゃるのですかっ?!」

「いや、患部を固定するのにサラシを使おうと思ったんだけど…、…だめだった?ちょっと汚れるだろうけど、洗えば大丈夫だと思うんだよね」

「そ、そう言うことならこれを使ってくださいっ!」



そう言って平君は自身の頭巾を手渡した。



「いいの?汚れるよ」

「構いませんっ!それよりも早く帯を締めなおしてくださいっ!!」



純情な少年の反応だな…。金吾君と四郎兵衛君も顔真っ赤だし。胸元をガン見してる七松君と次屋君も年相応と言えば相応だけど。

苦笑しながら真っ赤になっている平君から頭巾を受ける。

どうやら忍者の頭巾というものは、覆面として顔を隠す以外にも怪我をしたときに包帯の代わりにしたり、負傷者をおんぶする時のひもにしたりすることが出来るらしい。なるほど。

借り受けた頭巾で次屋君の足首を固定し、処置を終える。



「よし、これで終わり。もうすぐお昼だし、今日は学園に帰ろうか。七松君、今日はもう委員会活動は中止ってことでいい?で、ずっと忘れてたけど、委員長に渡すように頼まれたプリント」



七松君はプリントを受け取りながらにかっと笑う。



「そうだな。三之助の怪我もあるし、今日はもう学園に帰ろう!」



七松君の言葉にほっとした体育委員会の面々。普段の苦労をお察しします…。





++++++++++++++++++++++++++++++



(やっと帰ってこれた〜)
(おー、棗、やっと来たか。もうほとんどの生徒が食い終わったぞ)
(えっ!?おばちゃん、すいません!!)
(いいのよ、事務の仕事お疲れさま。貴方の分、取ってあるから先に食べちゃいなさい?)
(ほんっとぅうにごめんなさい!食べ終わったら直ぐに片付け手伝いますね!)









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