適量の孤独 | ナノ


上手く、笑えているといい


「あいつと何処で会った」

その問いとも肯定とも取れぬ呟きを、オレは木ノ葉の里に帰る途中で聞いた。
勿論、綱手のばあちゃん。
もとい五代目火影様を連れ帰る帰路の途中で、である。

「あいつって?」

先の戦闘で大蛇丸とカブトへの印象が強かったからか、てっきり奴らのことを聞いているのかと思ったが、エロ仙人の顔を見た瞬間違うなと悟った。
見渡す限り森、森、森。
そんな濃緑ばかりの道を綱手のばあちゃんたちから数歩遅れながらエロ仙人の言葉を待っていた。

「沙羅だ」

足元で小石を蹴りながら進んでいたオレは、あぁ、と納得するよりも早く「エロ仙人、ねーちゃんのこと知ってんのか?!」そう叫んでいた。

「騒ぐな騒ぐな」

ひらひらと振られた手が、蹴っていた小石など忘れ飛びかからんばかりの勢いを止める。
なんと言葉にしたらよいのか思案しているのか、エロ仙人はぽりぽりと頬を掻き視線を彷徨わせた後「あいつは、まぁ、知り合いかのォ」と呟いた。
勿論、そんな言葉で納得するオレじゃない。
知り合いとか知り合いじゃないとか、聞きたいのはそんなことじゃなくて、ねーちゃんが何者なのか。それが知りたいのだ。

「あの時のねーちゃん、忍術を......」

そう、忍術を使っていた。
眩い閃光の向こうで、綺麗な顔が見たこともないぐらい焦りで歪んでいたことを覚えている。
見開かれた瞳が、オレの知る忍の世界を映していた。
それでも、無意識に鞄の紐をぎゅっと握り締め思い出すのは、着物をぼろぼろにして額に汗を浮かべ足を引き摺って、それでもふわりと目尻を下げて微笑むねーちゃんの顔。
あの時、確かにオレの耳は「無事でよかった」と呟く声を拾った。

オレの知る、ねーちゃん。
優しい目でオレを見てくれる忍とは関係ない世界で生きる人。
でも、本当は?
一緒に食べたラーメンの美味しさも、湧き上がるむず痒い嬉しさも、全部本物だった。
でも、本当は?
きっと、答えは直ぐ近くにあったのだ。
ぶつかって出会った、あの瞬間から。
オレをうずまきナルトだと分かったのも、見上げる瞳が驚きに満ちていたのも、怪我をしたと微笑む姿が悲しく見えたのも。
全部、全部。
ねーちゃんの本当を映していたのだ。

「エロ仙人、ねーちゃんって......」

しっとりと汗ばんだ手が再び鞄の紐をきゅっと握り締める。
風が緑の波を縫って指の谷間に滑り込もうとしていた。

「あいつは......元、忍だ」

ぽつりと呟かれたエロ仙人の声がストンと首筋に落ちてくる。

「そっか」

ねーちゃんが昔忍だったからって、オレが感じてきた全てが嘘になるわけじゃない。
それなのに、ふと浮かんだこの気持ちは何なのだろう。
忍の世界を知らない人。オレ自身を見つめてくれる人。
そう思っていたものが崩れていったような、そんな感覚だ。

上手く、笑えているといい。

「おーい!お前たち、置いて行くぞ」

随分と離れたところで、綱手のばあちゃんがオレたちを呼んでいた。





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