05
あれからいったいいくつの年月が過ぎたのだろう。
沙羅はあの飲み会の数年後、三代目火影の死を契機に上忍へと昇格した。
そして現在。
シカクと同じ位へ辿りついた沙羅の前には第四次忍界対戦の末に荒廃した木ノ葉の里と、その中で何よりも優先して再建された慰霊碑が重く鎮座していた。
あまりに多くの被害を出した第四次忍界対戦。
慰霊碑にはその多すぎる死に、個人の名が刻まれることはなかったが、中に封印された書物にはしっかりと戦死者の名が一人一人記されている。
沙羅に忍としての道を示してくれた奈良シカクの名も、そこにあった。
「……」
この場所へ来る度に、沙羅は自分の荒廃した胸の内に気付かされるのだ。立ち直ろうと奮い立つ頭とは裏腹に、心に広がる虚無感。
そして、慰霊碑が再建され初めてこの場所を訪れた時、ふと遠い昔に消え失せていた名も無い何かが湧き上がってくるのを感じたのだ。
それが何であったかという答えを、今の沙羅は導き出すことができた。
しかし、それを口に出そうとは思えなかったのである。
声に出してしまえば眠りにつこうとしているシカクの邪魔になると思ったからだ。
それ以上に、返って来ない返事を待ち続けてしまうだろう自分の姿が想像できてしまい、真綿で首を絞めつけられる心地を味わうような気がしたのだ。
「シカクさん。また一緒に飲みましょう」
そう告げることしか出来ない心を、沙羅は悔しく憎らしく思いながら、またどこかではホッとしていた。
彼の答えを聞かずに済む。
それが唯一沙羅の心の均衡を保っていた。
何と歪んだ考えだろう。
揺らぐ視界を無視して慰霊碑を背に歩き出す。
―――――ぽつり
―――――ぽつり
「……」
その瞬間、沙羅は驚きで慰霊碑を振り返った。
まるで、シカクに頭を撫でられている錯覚に陥ったのだ。
しかし、そこに求めた姿は無い。
―――――ぽつり
―――――ぽつり
止まる足、頬を伝う雫。
私を捉えて離さなかったあなたの存在。
あなたが私を引き止めるために降らせた雨ならば、あなたとの思い出に少し涙しても許されるのだろうか―――――
▼あとがき
お読みいただきありがとうございます。
「遣らずの雨」はだいぶ前に書いたものです。
妻帯者のシカクさんという設定を大切にしながら、そんな彼に惹かれていく主人公を書いてみました。