小説 | ナノ




過去も未来も巻き込んだ第四次忍界大戦が幕を閉じた。

誰一人として心にキズを負わなかった者はいない。
この蒼穹を取り戻すまで、人々は敵と戦い、己と葛藤した。
血と死臭に飲まれた戦場で成すべきを成した全ての人に、大戦終幕を告げる気力と体力は残っていなかった。

しかし少しずつ、ほんの少しずつ。

人は、日常を取り戻そうとしていた。


私も、その一人である。





「・・・本当に、良かったのですか」


眼前に広がる燃え盛った炎。
第四次忍界大戦を彷彿とさせる光景に苦虫を噛み潰した。


「フフ・・・貴方はそればかり言うのね」



隣で私と同じ様にその光景に目をやっていた大蛇丸様が苦笑気味に答えた。
眼前で焼失していくのは嘗て大蛇丸様が研究を行っていたアジトである。
第四次忍界大戦後、彼は不意に各地に点在しているアジトを燃やして廻った。
何故そんなことをしているのかは、結局最後のアジトを焼失させている今ですら分からない。
元々彼の思考など私の理解の及ぶところにはないため、こうして同じ景色を見ることでしか汲み取ることは出来なかった。

微かに薬品の香りが風に乗って運ばれてくる。



「確かに、口惜しいわね」



ふと口にした大蛇丸様に視線を移す。
燃ゆるアジトを見つめたままでいるその横顔は、いつもの様にゆったりと余裕に満ちた笑みが浮かんでいた。



「もしもまた、私が研究を始めたら、

今度こそ新しい風に吹き飛ばされたりするのかしらね」



誰ともなしに呟かれた一言を、私の耳は具に拾う。
フフと自嘲的に笑んだ声は、過去を見ているのか。未来を想像しているのか。
ふと大蛇丸様が静かに溜め息を漏らした。




「これから貴方はどうするの?」


「え・・・」



まるで予期せぬ質問に体は石の様に固まる。
ちらりとこちらに寄越された視線が私に意志を問うていた。
今までどうするのかなどと漠然とした判断を委ねられる質問をされたことがない。
何をするにも、結果をもたらすための過程を任される言葉しか向けられたことがないのだ。
返事は勿論Yesのみ。
そんな経緯が、私の発する言葉尻に戸惑いを覗かせたのは当たり前の話である。



「・・・行っても、いいのですか?」



大蛇丸様と共に。
そう言葉にする前に、彼は私から視線を外しクスクスと笑いだした。
まるで子供を見るかの様に。



「あら、貴方がそう言うなんて珍しい。てっきり、付いてきてくれるとばかり思っていたのだけれど」


「・・・」



空気が止まる。

意識が留まる。



あぁ、私はこの言葉を待っていたのだ。



小さくなってゆく火種の向こうに果ての見えぬ青。
高鳴る鼓動は歓喜か、期待か。
胸を通り越して背中を伝う爽快感に、私は深く息を吐いた。




「お供させていただきます」




願わくば、この先の人生を。
彼の傍らで見続けられるようにと願う。