小説 | ナノ

に焦がれて鳴く蝉よりも、



「良かったじゃねぇか」

アスマが相槌のように吐き出す紫煙を視線が追う。
ゆらりと昇ることなく風に攫われる姿に俺の話ももしかしたら適当に流されているんじゃないだろうかという疑念が湧いた。

「良かったって……ねぇ」
「良いことじゃねぇか。お前だって最初は好きだの愛してるだの言われなくて寂しいって泣いてたくせによ」
「泣いてないでしょーヨ」

まるで揶揄いがいのある玩具でも見つけた子供のような切り返しを楽しむ相手に溜め息が溢れる。
アスマに相談したのは間違いだったかと思考し、目の前を青春だぁ!と駆け抜けるガイよりはマシかというところに落ち着いてまた溜め息を零す。
そんな俺に呆れたのか、アスマは何度目かの喫煙を楽しみながら告げた。

「まさかお前、沙羅にらしくないなんて言ったりしてねぇよな?」
「言うわけないでショ」
「だよな」

本当はぎくりと顔が引きつったなど言えない。
あの瞬間。
俺は口に出すことはしなかったが、確かに沙羅に対してらしくないと思っていた。





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