小説 | ナノ

羽色



小雨が風に攫われしゃらしゃらと降っていた。
鉛の空は雲が低く閉塞感を感じさせる。
スリーマンセルで任務に当たっていたうちの一人は、先の戦闘で負傷しため別行動をとっていた。
泥濘む地面をぬるりと踏み締め、俺と彼女。沙羅さんは任務遂行を優先し足早に森を駆けていた。

「ゲンマが抜けた穴は大きいけど、なんとかなりそうだねー」
「まだターゲットにも出会えてないんですから、気を抜かないで下さい」

へらりとしたいつも通りの笑みが向けられ、緊張の糸が緩んでいく。
どちらかといえば額縁通りに任務を遂行していくタイプの自分とは違い、彼女は臨機応変という言葉がしっくりきた。
もしかしたら、だからこそ馬が合っていたのかもしれない。
そして、何故か気になる存在だと思っていた。
上忍昇格祝いの言葉を貰った時、相棒の様に組むことが多くなっていた彼女の口から、「私は要らないかもしれない」という言葉を聞いた。
対し、出した答えは「あなたが必要だ」という単純なもの。
何故そう思ったのか。
正直考えたことなど無かったが、彼女の口から自分を過小評価する言葉が出てきたことに苛立ったことは確かだった。

「止まって」
「!」

曇天に映える白雪のように華奢な腕が目の前に伸び足を止める。
鋭い針を思わせる声音はへらりと笑んでいた彼女からは想像も出来ないものであったが、そのスイッチの如く変化していく姿が本来の彼女だと知れば、それは何ものよりも信頼がおけた。

「来る」

歯の隙間から漏れる声を鼓膜に感じ取る。
ぞくりと背を伝うのは、彼女独特の殺気とやらをこの身が察知したからだろう。
現れた数人の忍びの声を拾っても尚、刃物のように鋭利と化した声を聞き漏らすことは無かった。

「待ち伏せかぁ……仕方ない」

ちらりと配られた視線に、俺の思考が何をすべきかを悟る。
言葉は無い。サインも無い。
唯一つ、

いくよ。

そう合図されたことは理解できた。





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