小説 | ナノ


曜日の微睡み



起きて


そう、声が聞こえた。
久しく顔も見ていなければ声すら聞かない、初恋の女。

今更俺の夢に出てきて何の用だ。



起きて


起きてなんかやるものか。
せっかくの日曜日。
久しぶりに取れた休暇。
バレー馬鹿たちの顔を連日見てきたツケが今になって襲ってくる身体。
休まない手はないのだ。
いくら初恋の女でも、そこは譲れない。


起きて


滑らかに入り込んでくる心地良い声。
肩がほんわかと温かくなっていく。
店番をしながらうつらうつらと舟を漕ぐ日曜日のこの時間が、俺にとっては一番の幸せだ。

なのに。

なんで、今はもう忘れたであろう初恋の女に起こされなきゃならん。


起きて



起きて

徐々に近付いて来る、初めて恋した女の影。
もう少しで、

もう少しで気持ち良い眠りへと落ちることが出来るのに。


起きて


「あ゛ぁぁぁ!!!」
「?!」

やってられるか!
いい加減にしやがれ!



「……やっと起きた」

え。

なんで。


「何でお前がここにいる!」





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