そんな火曜日限定のバイト民である私であったが、今日は何故かコンビニのレジに立っていた。
何でも同じくアルバイトでシフトに入っていた人間が風邪でダウンしたとのこと。
穴埋め要員が誰もいなかったようでお鉢が回ってきたのだ。
偶然にも予定を入れていなかった私はバイト代が増えるという安易な考えのもと、偶然代打を務めることにした。
金曜日のことである。
「あ……」
偶然とは不思議なもので、あの唯一楽しみにしている光景がコンビニの扉を開けてやってきたのだ。
あのトサカ頭は見間違えることはない。
今日は珍しく制服姿であり、楽しみな光景を生み出している片割れのプリン頭がいなかった。
今日は一人なんだ。
「……」
すると、扉を開けてやって来たトサカ頭の青年がレジを見て猫が瞳孔を開くように一瞬目を見張ったのだ。
「……いらっしゃいませ」
何故かこちらを見つめられた気持ちになった私は、業務用の台詞を宙に飛ばして裏方から聞こえた先輩の声に足を向けたのである。
それからというものの、いつものように店内をぐるりと一周した彼は飲み物やお菓子を適当にかごに入れてレジへとやってきた。
「こんにちは」
「……!こ、こんにちは」
火曜日に見る妙なトサカ頭の彼がニコニコとした笑顔と共に喋りかけてきたのである。
ピッ ピッ ピッ
驚きながらも笑顔を返してはみたが、気まずさに拍車がかかった。
バーコードを読み取る無機質な音がせめてもの間繋ぎであったことは言うまでもない。
ピッ ピッ
「あれ……」
コンビニ店員の性か。悪癖か。
かごの中身を見ることなく手にしたものをバーコードで読み取っていたせいか、かごが空になっていたのだ。
かごの中でふらふらと商品を探して彷徨う手に恥ずかしさを覚えながらも、私はふと変に思い既に読み取った商品を確認した。
栄養食品が無い。
「あー、あれはいつも一緒に来る奴に買ってやってるだけだから」
「え……」
まさか声に出していたのだろうか。
あんなお客の品物を観察していました。と言わんばかりの内容を。
そう思い目を白黒させていると、彼は「口には出てないので大丈夫ですよ」と口にした。
私の心の内を全て見透かしたような発言。
読心術でも身につけているのか、彼は。
「あいつほっとくと何も食べないでゲームしてるから」
そう言って財布を取り出す彼。
ふと思い出してみれば、毎回来るたびにプリン頭はゲーム雑誌コーナーにいたな。と思い出した。
確かに細っそりとしたイメージが脳裏に浮かぶ。
「友達想いなんですね」
合計882円を伝えると、彼は液晶をちらりと見つめ財布から一枚の紙を取り出した。
ピン札なのに少し端がよれているところが何故か彼に似合っている気がしてふと口元が緩む。
「今日は代理?」
レジを挟んでいるというのに、何故か友達と話しているような気分になった私の口はついつい軽くなった。
しかし手元はしっかりと店員業務を進めていく。
私も案外器用な人間なのかもしれない。
「そうなんですよ。シフトに入っていた子が風邪引いちゃって……」
お弁当や飲み物、数点のスナックを袋詰めし彼に手渡す。
律儀に「ありがとう」と声にした彼に不思議と好感が持てた。
「……」
「……?」
しかし、袋を受け取った彼はじっと視線を手元に落としたまま沈黙を作り、ふと
「でも、良かった……」
と小さく小さく呟いたのだ。
「?」
その言葉の意味を理解出来なかった私は首を傾げる。
いつものニヤニヤとした笑みから雰囲気が変わったなと思ったのも束の間、いつもの笑みがこちらを向いたのだ。
「何を買うかまで覚えてるなんて、お姉さんも物覚えいいんですね」
「……」
ん?
一瞬の脳内凍結の後、彼の言葉がお湯の様に滞った思考を回復させていく。
それじゃあ、まるで。
まるで。
私が彼に興味があるみたいじゃないか。
「……!」
行き着いた答えに私は慌てて彼を見上げた。
頭一つ抜け出た妙なトサカ頭をした青年の猫のような瞳を。
その瞳はおもちゃを見つけた子供のように、にんまりと笑んでいた。
「それじゃあ、お姉さん。また、火曜日に」
軽々と持ち上げられるコンビニ袋。
長い手足が店内のBGMを背に去っていく。
残ったのは自分でも理解出来ぬ不思議な感情と、ほんの少しの気恥かしさ。
来週どうしよ……
なんて考えてみても答えなんて分かるはずもなし。
とりあえず、店員権限で一番人気のスイーツを一つ確保しておこう。
▼あとがき
お読みいただきありがとうございます。
HQより、曜日シリーズ第三弾となっております。