小説 | ナノ


曜日の憂鬱



雨だ。



雨はあまり好きじゃない。

傘を差さなきゃいけない。

スカートやら靴やらが濡れる。

電車の中で他人の傘が当たる感覚が苦手だ。






平日の雨はもっと好きじゃない。

日が差し込まない部屋で起きるのは一苦労だし、

ハンカチだタオルだ、替えの靴下だ、って荷物が多くなる。

登校下校で歩く道のりは何時も以上に息苦しいし、

何より鬱々とした雰囲気の中で授業など受ける気にならない。



得に今日の様に週末明けの日はもっと最悪だ。










つまりは何が言いたいかっていうと、




「雨だよー研磨。気分乗らないから授業受けたくない」

「うん」

「何で降るかな。ここ最近晴れだったのに」

「梅雨に入ったからじゃない」



ゲーム機に視線を下ろしたまま会話を続ける我が恋人は、中々に話の分からないヤツらしい。



「えー、一緒にサボろうよ」

「ヤダよ」



椅子の背もたれに肘を掛け、研磨の机上に腕を放り投げる。

あいもかわらず、研磨が私に視線を向けてくることはない。

最近出たばかりの新しいゲームにご執心なのである。






「ねー」



「ちょっと黙って」



「研磨くんが冷たーい」







「・・・」






「ねー、研磨くーん」







「・・・なに」



研磨は面倒くさくなると無視を決め込む。

けれどしつこく話しかけると、酷く面倒くさそうに此方を見てくる。

その瞬間が堪らなく好きで、何時もウザがられるくらいにチョッカイを出す。

きっと面倒くさいとか、ウザいとか、静かにして欲しいとか、色々思ってると思うけど、最終的に研磨は折れてくれるのだ。



「わーい、返事してくれたー」

「用がないならゲームしていい?」

「ゲームするなら場所移動しようよ。そしてサボろう」

「ダメだよ。クロに怒られる」

「クロ先輩かぁ。それは難敵だ」

「でしょ。だから」







バァンッ






研磨の話途中に、身を預けていた机に両手を大きく打ち付け続きを拒んだ。


「最近。バレーの練習忙しそうで平日は遊べないし、


折角の休日はユックリ休んで欲しいし、



何時研磨と二人きりになれるって言うのさ!」



ぐっと身を乗り出して研磨に迫れば、猫の様に大きな目を更に見開く。

あ、その表情も好きかもしれない。

そんな事を思いながら、理論も何も無い文句を垂れた事をちょっと後悔した。

研磨が何だかんだ言ってバレーを頑張ってる事も知ってるし、不器用だけどキチンと私に向き合ってくれている事も理解していた。






なのに。




あんな面倒くさい事を言うつもりなんてなかったのにな。

毎日くれるたった一言のメールで、十分我慢出来ていたはずなのに。







あぁ、やっぱり今日は最悪だ。

何たって雨が降ってる。

雨が降ってるから、こんな鬱々とした気持ちになっちゃうんだ。




「ごめん」

「え」

「そんな事言うつもりなかった」

「ちょっと」


研磨に何か言われる前に自分から謝って、後ろを向いていた体を教壇へと正した。

引き止める声が聞こえたけれど、如何しても向きたくなかった。






最悪だ。





勝手に怒って、勝手に自滅して、剰え相手の呼びかけに無視を決め込んでる。

こんな嫌な性格じゃなかったはずなのに。






「授業始めるぞー」


鐘の音と共に教室へと入ってきた教師に、研磨も直ぐに諦めたようだった。



何も聞こえなくなった背中からの呼び声に、酷く後ろ髪を引かれていた自分がいた。





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