小説 | ナノ


逸花に寄す



あなたが何処にいても、私は見つけることができますよ
ほぉー、それは頼もしいのぉ
嘘だと思ってらっしゃる?
いやいや、
本当ですよ。だって、


「......」

夢から覚めるのはいつだって簡単だ。
己の意思など関係ないのだから。
重い瞼をそっと開いて錆びた人形のような指先にぴくりと神経が這って、そして魂の抜けるような溜息を一つ吐くだけ。
それだけで私はこの世に帰ってきてしまったことを実感するのだ。

寺の朝は早い。
養鶏が餌を求め朝を告げるよりも早くに目覚めが訪れるのだ。
規則正しく朝を迎える。
境内の掃除に朝餉の支度。養鶏やら畑の世話、昼餉の準備に諸々の雑務をこなせばあっと言う間に夕餉になり夜が来る。
まさか忍として生きてきた自分が尼僧になるなどとは、きっと過去の私は露ほども思ってはいないのだろう。
自来也様が死んだとナルトくんが茫然自失していた最中、私は出て来ぬ涙を内に貯め早々に額当てを外しこの尼寺へと足を運んでいた。いや、運んでいたと聞こえを良くすると語弊があるが、ようは逃げ込んだのである。
今思えば一刻も早く自来也様と同じ場所へと逝きたがっていたのだろう。
同僚であり忍界という死地を共に駆け抜けてきたアオバは、私を訪ねて尼寺へとやって来たが、この姿を見るなりその読めぬ瞳を隠すサングラス越しに「そこまで思い詰めてたなんて知らなかったよ」と零した。
けれど私自身思い詰めている気などさらさらなかったので、微笑み一つで受け流したのである。
それをどう受け取ったかは定かではないが、アオバはその日以降この尼寺を訪れたことはない。きっとこの場所が自分には用の無い場所であると瞬時に悟ったからなのだろう。
アオバが来なくなったことに心の皮膜が薄っすらと剥がれていく切なさはあったが、私にはそれ以上の思い入れはアオバにはなかった。
だからこそ、アオバのように私を訪ねて尼寺へとやって来る人間が減れば減るほど切なさの裏でほっとしてもいたのだ。自来也様を追い、死へ近付こうと尼寺へやって来た私なんかを気に掛けてほしくなかったから。
そんなことを思いながらいく年月が過ぎたかしれない。
私は今日も愛しい夢から覚め、自来也様を想うだけだ。





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