小説 | ナノ




「……ふう」

何度目か分からぬため息を自覚するほどに、私はこの日を楽しみにしていたのだろう。







人気の無い木の葉門前。

いるのは里への出入りをチェックする門番と警備だけ、というなんとも情緒のへったくりもない光景が目に入った。
仄かに灯る篝火が「こんな日も仕事か」と愚痴を漏らさんばかりの彼らの遣る瀬無い顔を映し出している。
それも無理はない。



なんたって、今日は大晦日。


一年汗水垂らし生死を分ける戦いを潜り抜け無事なんとか生きている。
そんな日々を過ごしてきた人間にとって、今日は一年の締め括りになろうかという日なのだ。
しかし、忍には大晦日なんてあってないようなもの。
門番や警備、もちろん私のように里外へ任務に出ていた者然り。
こんな夜更けにまで任務で駆り出されるのが宿命とはいえ、あまり歓迎できるものではなかった。


年明けまで、後半刻。


まぁ、新年になる前に里へ帰還出来たのは不幸中の幸いだったのだろう。
新年になる前に任務を終わらせると意気込んだ優秀な仲間たちは、言葉通りの素晴らしい働きをしてくれあっという間に任務は終了した。
良いお年をなんて言葉を言い合えたことは、優秀な仲間様様だったのである。
だが私の仕事はこれで終わりではなかった。
任務報告書を作成、提出に向かわなければいけないのだ。

綱手様が大晦日の空気に飲まれて、酔い潰れていないことを祈るばかりだった。



何故なら、私には今日果たせる可能性の低い約束を交わしていたからだ。




見上げれば空一面に、今年の締め括りに相応しい星々が輝いている。

まるで、「お疲れ様」と囁いてくれているかのようだった。





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