罰に恋して(tnzn)

 大きな白いレースのヘッドドレスが鮮やかな金髪の上で存在感を放つ。胸元の大きく開き、腰元がきゅっと引き締まったフリルミニスカートのワンピース――いわゆる、メイド服というやつだ――からは、洋服には似つかわしくない無骨で筋肉質な脚が伸びていた。
 扉を開けて部屋へと入ってすぐ、メイド服姿の人物の歩みは止まる。ここまで動くのがやっとという様子だった。
「なぁ……何で俺こんな格好しなきゃいけないわけぇ……?」
 恥ずかしそうにもじもじとして、腰がひけて前屈みになっている人物の前に、別の人物が立っている。
「ば、罰ゲーム……だ」
 問いかけられた疑問に、ようやっと言葉を返しながらも言葉を発した主は、ごくりと息をのんだ。
「なぁ、たんじろぉ……もう、いいだろぉ……?」
 琥珀色の瞳いっぱいに涙を溜めながら、メイド服を着せられた人物は、炭治郎と呼び掛けた目の前に人物に懇願する。
「だめだよ、善逸。まだ、これからだ……」
 炭治郎の言葉に、涙を浮かべたまま善逸と呼ばれたメイド姿の人物は怯えながら身体を震えさせた。
 そして炭治郎が取り出してきたのは、白い物体の入った小瓶と取り立てて持ち手の短いスプーンだ。
「これ……何……?」
 目の前の机に置かれたそれに、善逸は再び身震いする。顔からはすっかり血の気が引き、何が起こるのか分からないこの状況に、心底恐怖しているらしいことが伝わった。
「まず、こっちにおいで。善逸」
 手招いている炭治郎に、善逸は躊躇していて身動き一つしない。だが、炭治郎の柔らかな微笑みに、おずおずとその足を踏み出した。
 歩きにくそうにしながらヒールの高い靴で善逸は、炭治郎のもとへ一歩一歩と近づいていく。
 そして二人は部屋の真ん中で、手の届く程度の距離で向かい合った。隣には件の炭治郎の取り出したものの置かれた机がある。
 近づいて見てみれば、小瓶の中には乳白色のものが詰まっていた。小瓶は密封されているため詳しくは分からないが、見る限り硬いものというわけではなさそうだ。
「な、たんじろ? これ、何なの?」
 善逸は首を傾げながらもう一度、炭治郎に小瓶の中身その正体について問いかけた。
「ヨーグルト、らしい」
「へ? 何で?」
「善逸」
「ふぇ?」
 ヨーグルト、中身を教えられたがそれで抱いた疑問が解決するわけではない。解決すると思っていたが、善逸には全くもってさっぱりわからなかった。
 そんな善逸を前にしながら、炭治郎が背筋を正して名前を呼ぶものだから、もうどうしたらいいのかがさっぱり分からず、口からは間抜けな声しか出ない。
「これを」
 炭治郎が善逸に差し出したのは、持ち手の短いスプーンだ。
「これを使って、俺にヨーグルトを食べさせてくれ。それが罰ゲームだ」
「なぁんだ、簡単じゃん」
「但し」
 善逸がほっと胸を撫で下ろした次の瞬間、炭治郎が低い声を向けてくる。嫌な予感しかしなかった。
「このスプーンを咥えて、ヨーグルトをここに置いたままそのスプーンで掬って俺に食べさせてくれ」
 炭治郎の言葉の意味が、善逸には全く理解できない。時間が止まったのではないかと思った。
 それほどまでに空気は重く固まり、二人は動かず、他に誰もいないこの部屋は正しく無の状態で止まる。
 炭治郎も善逸も互いに頬どころか、耳まで真っ赤に染め上げていて言葉を口にすることもままならない。
「は?」
 ようやっと静寂を破ったのは、善逸の一声だった。
「だから……」
「言わなくていいから! 全く……罰ゲームだし、なんでもするって言ったの俺だし、やるけどさぁ……」
 善逸は口から文句を際限なく吐き出しながらも、拒絶することはなく炭治郎の指したスプーンを手に取る。そして机に合わせて膝立ちになると身体の位置を整えた。
 少し躊躇しながらも短い持ち手を口に咥えてみるが、しっかり支えようとするとどうしても持ち手の大半を口の中に含まなければならない。それはどう考えても理不尽な状況しか生み出さないものだった。
 一度咥えたスプーンを口から抜いて、善逸は「無理無理無理! やっぱこれ無理!」と高音な声で捲し立てる。
「だめだ、これは罰ゲームなんだからな」
 拒絶を許さない炭治郎の声が、善逸へと降ってきた。善逸は涙目で炭治郎を見上げるが、それでも何かが覆るわけではもちろんない。
 そのうち善逸もさすがに諦めて、もう一度スプーンを咥え直してからヨーグルトの小瓶の蓋を開けた。
 ゆっくりゆっくり机に向かい善逸は顔を近づけていく。そしてスプーンを小瓶の中へ入れて中身を掬い取ると、それをまたゆっくりと抜き取るべく動いた。
 しかし、簡単にことが運ぼうはずもない。動けば動くほど、スプーンで掬ったヨーグルトが飛び散り、少量しかなかったそれはあっという間になくなってしまった。
 しかもだ。それは善逸の口元や胸元の開いた服に飛び散ってしまっていた。スプーンを咥えたまま善逸は再び、その瞳を涙で潤ませる。言葉では何も訴えることの叶わない状況だが、その瞳は雄弁すぎるまでにはっきりと、これ以上の行動を拒否する意思が見て取れた。
「ダメだぞ、善逸。これは罰ゲーム、なんだからな」
 涙ぐんだ瞳で見上げてくるその様子、そして口元や胸元に飛び散ったヨーグルトが妙に卑猥なものに思えて、息を飲まずにはいられない。しかし炭治郎は、それをぐっと堪えて善逸へ罰ゲームの遂行を要求する。
 無慈悲な炭治郎の声に、善逸はさらに目を潤ませて今にも涙がこぼれそうになっているが、それでももう一度咥えたままのスプーンを小瓶へと近づけるべく、顔を寄せて行った。
 だがやはり、結果は変わらない。先ほどより多く掬ってみるが、それが仇となってよりたくさんのヨーグルトを散らしてしまう。
「んっ、んん〜! んう!」
 慌てて声を出す善逸だったが、それも後の祭りというやつで、先ほどと同様にしかも先ほど以上にヨーグルトを盛大に散らしてしまった。
 だが、今度は量を多めに掬っておいたのが良かったのか、スプーンの先にはいくらかヨーグルトが残っている。
 膝立ちのままゆっくりと机からほんの少しだけだが離れて、善逸は必死に炭治郎に向かって咥えたままのスプーンを差し出した。
 先ほど以上に胸元やその下、口元にもさらにどろりとした白いヨーグルトがこべりついて、それでも涙ぐんだまま見上げてくる表情に、炭治郎はどうしようもなく劣情を覚えずにはいられない。
 しばらくそのまま目の前に広がる背徳かつ優越感をも感じさせる光景を、炭治郎はただじっと見つめていた。しかし、それを必死に阻もうと善逸は何度も声を上げる。相変わらずスプーンを咥えたままであるため、言葉を発することは叶わないが何度も音として発せられる声は、炭治郎にはまるで喘ぎ声のように感じられてしまい彼の動きをさらに硬く重たいものにしてしまった。
「ん〜! んっ、んん〜!」
 必死に主張する善逸の様子には、激しさが混じり身体の動きに合わせてヨーグルトがまた少し衣服などに散る。
 そんな様子に炭治郎はハッとして、慌てて善逸の方へと近づき顔を寄せた。寄せれば寄せるほどに、さっきまでの善逸の奮闘の後でもある飛び散ったヨーグルトが口元で存在を主張している。それは淫靡にも思えた。
 炭治郎はそのあまりに扇情的な善逸の姿を視界に入れてしまわないように、双眸を薄く開くのみにとどめ、ゆっくりとスプーンへと口を寄せていく。
 唇がスプーンの先に当たったときだった。ふっとあたたかいものが炭治郎を口元をかすめる。何かと思い慌てて炭治郎が双眸を再び大きく開くと、すぐにその正体にたどり着いた。
 それは、善逸の息だ。さすがに息を止めるように願い出ることもできず、炭治郎は再び善逸に顔を寄せ、スプーンからヨーグルトを舐めとった。かかる息は善逸の緊張を表しているのか、不規則で油断すればその甘ったるさに崩れ落ちてしまいそうになる。
 それでも何とかこの罰ゲームを終わらせた炭治郎は、善逸の口からそっとスプーンを抜き取った。
「ふぇ……終わり……なの?」
 善逸は困惑しきっていて、その視線には疑問がはっきりと見て取れる。
 だが炭治郎はその問いに答えることはなく、もう一度善逸に顔を寄せると口の周りについたヨーグルトを舐めとりはじめた。
「ひゃん……ま、待って……! たんじろ……っ、何して……んんっ」
 ぴちゃぴちゃと肌と唾液の当たる音がする。善逸は炭治郎にされるがまま、全身を小刻みに震わせながら、その場から動くことができない。炭治郎は、ただひたすらに善逸の口の周りを執拗なまでに舐めあげると、そのまま唇を重ねた。
 善逸の身体が今度は大きく跳ねる。それでも容赦なく炭治郎は舌を善逸の口の中へと侵入させ、余すことなく蹂躙して止まらない。
「ん、んんっ……! はっ、あっ……」
 蹂躙の合間にこぼれ落ちる善逸の喘ぎは、炭治郎のことを煽るばかりだ。水音が大きくなり、部屋の中に響く。それでも炭治郎の、長い長い責めは終わらない。
「あ、んっ、まっ……ひぅ……」
 善逸の声はさらに甘く、蕩けたものに変わっていく。それでもなお、炭治郎の舌は善逸の口内を舐め回し、刺激し、止まらなかった。
 どれほどそうしていただろうか。やっと離れた炭治郎の表情はどこか満足げだ。それに反して善逸は、すっかり頬を紅潮させて息も荒くそして蕩けきった顔は、どこか物欲しそうですらあった。
「たんじろの、バカぁ……」
 精一杯の恨み節は、迫力などは一切なくただ言葉を吐き出すのが精一杯だ。
 その善逸の姿を見つめながら、炭治郎は不敵に微笑んでいた。
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