祝え、君の生誕の日を(tnzn)

 早朝、日が昇りはじめるかどうかくらいのころだ。とある寝床周りがどうにも騒がしい。
 その部屋には、落ち着きのない様子の炭治郎と伊之助の姿があり、箱の中にいる禰豆子もまたどこかそわそわとしていて、漂う雰囲気そのものがこの上なく落ち着きがなかった。そして、そんな中でも善逸は睡眠を貪っている。しかしどことなく寝苦しそうな表情なのは、部屋の雰囲気の落ち着きのなさがそうさせているのかもしれない。
「ううん……」
 善逸は寝言とすら言えないような声を漏らしながら、寝返りをひとつうつ。その様子を見つめながら、申し訳なさそうに炭治郎は腕を組んだ。
「やっぱり、起こしてしまうのは申し訳ないな……」
「別にいいだろ。こいつのためなんだからよ」
 伊之助は炭治郎の言葉に、苛立った様子を見せながらついに善逸に向かって、おい! と呼びかける。
「起きろ! 紋逸!」
 さらに呼びかけながら善逸の被った掛け布団を、力一杯引き剥がした。
「うぇ!?」
 一瞬、何が起こったのか把握できずに善逸はきょろきょろと周りを見渡して、その視線は炭治郎と伊之助の視線とぶつかる。
「何……、俺……何かしちゃった? の?」
 ぶつかった視線だけで善逸は流れるように、表情を曇らせて自分の覚えのないうちに何かをやらかしてしまったのではないかと視線を右往左往させながら、困惑している様子だ。
 彼の問いかけには誰も答えない。善逸はだんだんと曇らせた表情に怒気を滲ませながら、二人を交互に見つめた。
「ちょ、なんだよ! 何かあるなら言えよ!」
 怒涛のような表情の早変わりを見せる善逸に対し、苦笑いを浮かべながらも、善逸に見えないように細心の注意を払って小さく手招きをする。
「炭治郎?」
 その慎重すぎる様は善逸に違和感を与えたが、すぐにぎぃと箱の扉が開く音が彼の耳に届いて、弾かれたように視線を移した。箱の中からゆっくりと少し身を乗り出した禰豆子が、小さな花束をそっと善逸に差し出している。
「うぅ」
「えっ……禰豆子ちゃん、これ、くれるの?」
 驚きとともに問いかける善逸の言葉に、禰豆子は静かに頷いた。
「あっ、ありがとう! えっ、ちょっと俺! 幸せすぎてもう、死んでも……!」
「待て待て、善逸!」
 昇天しかけている善逸の手をぐいと引いて、炭治郎が声をかける。
「うぇ?」
 かなり間の抜けた声とともに善逸は、炭治郎の方へとゆっくりと視線を向けた。その炭治郎の手には禰豆子が渡した花と同じもので編まれた花の輪がある。
「こっちは俺と禰豆子で一緒に編んだんだぞ」
 炭治郎がにこりと笑って、善逸に手元のそれを手渡した。
「誕生日だと言っていただろう? おめでとう」
「あっ……ありがとう」
 どうやら失念していたらしい善逸は、祝いの言葉にハッとしながら礼の言葉を返す。その表情はあっけに取られていて、この状況を想定していなかっただろうことをありありと感じさせた。
「俺様から子分のお前にこれをやるぜ」
 今度は伊之助が、どこから取り出したのか両手いっぱいのどんぐりを差し出してくる。
「こんないっぱい……どうすればいいんだよ……」
 苦笑いを浮かべながらも、いい事をしたと言わんばかりの様子で目の前に立つ伊之助に、ありがとなと感謝の言葉を続けた。
「いいってことよ、親分だからな!」
 相変わらずあっけに取られた表情のまま、どうしていいかわからないと言った風の善逸の琥珀色の瞳から、自然と涙が溢れる。
「善逸?」
 炭治郎の呼びかけに、善逸は慌てて手首を使ってごしごしと力任せに涙を拭った。
「何か気に触ったか?」
「違うよ、そんなことない。こんなに……こんな風に祝ってもらったこと無かったから、嬉しくて」
「そうか、喜んでもらえてよかったよ」
 安堵した様子の炭治郎と、満足げな伊之助、そして読み取りにくくも穏やかな様子の禰豆子を見回して、善逸は花の咲き乱れるような笑顔で告げる。
「ありがとう!」
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