ごうんごうん。ぐるりぐるり。右に左に規則正しくまわる洗濯機を眺めるのはけっこうすきだ。なにがいいのか自分でもよくわからないけど、文字ぴったりに表せないふしぎな音とか洗濯物がくるくる押しあいへしあいするのは面白い。
「脱水に入ったので閉めますよ」
武市さんがどこからかぬっと現れて、洗濯機にふたをした。音がちょっと遠のく。
「武市さん洗剤いつもの?」
「柔軟剤ですよ。ええ、もう変えたりしませんから」
「やったあ」
前に使ったちがう種類の柔軟剤はきにいらなかった。わたしがこうしてわがままを言うのを、みんなは許すとかいやがる前に何ともおもってないらしい。こども扱いされるのは複雑だ。
「好きですか、あの香り」
「うん。寝るときに落ちつくの」
「高杉さんからも香るのでしょうね」
布団と着物からのいいにおいは毎晩をいつもしあわせにしてくれた。晋助はやさしい香りが似あう。
「優美」
「あ、晋助」
すたすたと晋助はわたしの前まで歩いて、あたまをよわく叩いた。なんで。
「………菓子くうぞ」
「おかし?もう3時?」
「優美さん、冷蔵庫に最中がありますよ」
「スイートポテトは?」
「きのう食ったろーが、来い」
晋助に手をひかれる傍らうしろを振りむいたら、武市さんが笑っていた。ちょっとこわい。いつのまにかわたしと晋助の指は絡まって、するりと自然に手をつなぐ。
「晋助」
「あ?」
「脱水するときに洗濯機のふたを閉めるのってなんで?」
「むかしから言ってるだろ。中身がぶっ飛んじまうからだ」
「それほんとう?」
「本当だ」
ちいさい頃から晋助っ子、っていうのだろうか。とにかくわたしのちいさな世界をうめつくすのは晋助だったから、ずっとずっと彼だけを信じていた。にんげんってどこから来たの、ときいたらお月さまだと言っていたこともまだおぼえている。
「ねー」
「なんだ」
「まだ3時じゃないよ」
「そうだな」
「おかしたべるの?」
「3時前に食うと腹下すぞ」
「ほんとう?」
「本当」
「じゃあなんで」
「優美」
なに、という返答は晋助の背中に遮られた。おおきな背中。わたしがずっとずっとみてきた後ろ姿。ぶつけてしまい鈍くいたむ鼻をさすりながら、晋助をみあげる。
「あまりひとりで出歩くな」
「やだ」
「即答かよ」
「だってみんなとおはなしたい」
「…言い方を変える」
「?」
「……あまり俺のそばから離れるな」
「…はあい」
ふにゃりとわたしが笑えば、晋助は複雑そうなかおをしたり、かとおもえば、ほんのちょっとだけどやさしく目をほそめたり。
「晋助から離れたらどうなるの?」
「ねこになるんだよ、俺もお前も」
「ほんとう?」
「本当」