むさい。むさい。むさくるしい。屋根のしたで日々そうかんじるこの所帯に、女がやってきた。正確にはまだ少女というか、がき。
「あ、そうごくん」
「げ」
「げろ吐いてしね土方」
「それをかぶってしね沖田」
とたんおどおどし始めた優美をよこめに土方をののしる。なんだこいつ、こんなかおもすんのか。優美と名乗るいかにもお嬢さんお嬢さんのちいさいやつは、いまどきめずらしくあいさつがちゃんとできるうえ、根っからのすなおさで周りの隊士どもをすっかりとりこにした。少々なまいきなとこもあるがそこがまたうりらしい。と、ザキが言っていたのでなんとなくバズーカをぶちかました。ありがとうと、ごめんなさい。そのふたつをきちんと言えることで、正直俺にも印象がよかった。さいしょのことはまあ、わすれるとする。
「そうごくん、となりにすわってくれる?」
「なんで」
「広間はじめてだから…どきどきするよう…」
「だめだ優美こいつのとなりなんて飯んなかにタバスコいれられちまうぞ」
「たばすこってなに?」
「しらねぇのか、タバスコをごはんにかけるとあらふしぎ〜くちから炎がふけるようになりやす」
「ほんとう!?」
「本当」
「ちがう意味だろそれ」
すなおというか無知というか。ほんとうにめずらしい。ちいさい足からてってっと鳴るおとも、新鮮だった。俺たちの足音は、床がきしむくらいどすの鳴るものだから。
そして土方コノヤローは、無意識に口にしたのか、どうなのか。
「お魚のにおいがするね」
優美のこえで我にかえった。鼻をひくつかせると香ばしいにおい。あいかわらずやつはてってっとあるく。なんでだろう。とくに合わさることも、ところもない、のに。
「おまえはぜってー骨に奮闘してぴーぴーなく」
「なかないもん!」
「魚がかわいそうなことになるのがオチだな」
「なら、ならない…もん」
よく姉上が、やさしくわらって骨をとってくれたことをおもいだした。たべやすいようにほぐして、俺はそれをうれしくも、ふくざつなきもちで食して。
なんとなく、なんとなく優美は、姉上の面影にかさなった。雰囲気も、足音もあまり似通ってはいないのに。よくわからない。