わたしの毎朝は、まだぼやけた意識でぬくもりを感じとることからはじまる。
「ん」
「おい」
「うー…」
「目ェ覚めたならおきろ」
「やだあ」
晋助の腰にうでをまわした。衿の間からのぞく肌にかおをうめてすうと息を吸う。いいにおい、だいすきなだいすきな晋助のかおり。
「襲っちまうぞ」
「晋助はそんなことしないもん」
「……大体てめーはいつになったら一晩をじぶんの布団で過ごせるんだ、あ?」
そのことばに瞼をおしあげたら、肘をついてわたしをみおろす天下の総督高杉しんすけさまが映った。
「むかしはいつも一緒にねてくれたのにー!何で別々にお布団分けなきゃいけないの!」
「お前は女で俺は男。わかるか?」
「いつもわたしのこと女じゃねぇっていうくせに!」
「そりゃからだの意味で俺が今言ってんのは性別だ」
「…いいもんべつに。これからも勝手に添い寝するから」
「優美」
「……」
「おい、優美」
「…なに」
「おはよう」
ひきょうだ。ちょっと掠れたひくい声とか、わたしの名前へ込められたあまいひびきに胸がきゅんと鳴ってふて腐れたもやもやはさざ波のようにひいてゆく。でもちょっとくやしい。そんなずるい晋助がだいすきだからやっかいです。
「おはよう、ばあか」
唇をとがらせ小言をもらすと、晋助はゆれる深緑でわたしをみすえてちび、と返した。わたしからみて左にある彼の唯一の瞳は、だれよりもつよくてまっすぐできれい。