冷えないようにとかけてくれた羽織りをぐしゃぐしゃに置いてきたことも、お布団をいつものようにちゃんとたたまなかったことも、いまになって悔いた。ばちが当たったんだ。はらいせのまま行動してにげた、わたしへの。ほんとうのほんとうは、晋助がかえってきたときにおかえりをいえる自信がなかったのも、事実。

「い、たい…いたいよ太郎くん」

「あたりまえだ。痛くしてるんだっつーの」

「おい、そりゃ本当か。鬼兵隊の高杉のことなのか?」

「なんども言わせんなクソが」

「ころおおおす!てめぇさっきからだまって聞いてりゃぬけぬけと!」

「…う」

こわ、い。こわい。手首がいたい。わたしこれからどうなるの。このひとたちになにされるの。

「優美、そうでしょう?江戸であんたをみかけたことが何度もあるんでさァ。高杉といっしょに。無防備すぎてこいつらなにしてんだとおもってたんですけどねェ」

「…ち」

「は?ちっせえよ声が」

「ちが、う…わたしは」

ちがうんじゃない。ほんとうだよ。くるしい、くるしいよ。どうしてこんなうそをつかなきゃいけないんだろう。その答えがわからないほどわたしはこどもじゃない。でも、くるしいよ。ほんとうのことなのに、晋助を否定するのがくるしくて仕方ない。

「わたし、たか、すぎなんて…しらないもん…おうち、かえる、かえ」

しってる。しってる。このひとたちが見ようとしない晋助のこと、たくさんしってる。

「…おい総悟」

「目撃者は何人もいやすぜ。いまからその隊士たち呼んできやしょうか」

「…まぁ情報収集としてむだにはならねぇだろ。こんなチビを連れてる高杉なんざ想像できねぇが」

「、ひっ、う」

「おら、歩きやすぜ」

太郎くんのうでのちからが強まった。ぎりぎりと骨に圧力が加わって、うごかない足はひっぱられる。地面にくっついてはなれないでとむだなおねがいをした。このおおきなおおきな門をくぐればおしまいだ。宙にういてない地面なんて、世界をみわたすことができない。そらへ近づくこともできない。なんておもしろくないんだろう。ゆうひのやさしい橙がきょうは残酷だった。わたしはそれを、晋助といっしょにみたいのに。

「や、やだ…し、ん」

「おい君たち、なにをしているんだ」

とつぜん辺りにひびいた声が、太郎くんの意識をそいだ。すうとちからが引くかわりにいたみがめぐる。こみあげるいろんなものに耐えてたせいか、のどがあつくなっていることに気づいた。声はわたしのなまえをよぶ。

「優美ちゃん?優美ちゃんじゃないか」

「い、とお、さん」



ねえ晋助、魔法をかけてよ。そうしてねこになったら、晋助のにおいをたどっておうちにかえるから。
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