「じゃーんけーんぽんっ」
「武市変態の鬼っス」
「先輩だっつの。はあ…10秒数えますからね」
「またこおねいちゃん!厨房に逃げよう!」
「あ、こら!言ってどうするんスか!」
ばたばた足音を踏みならして船のなか鬼ごっこをするわたしたちはふつうののんきな暇人だ。わたしからさきに走りはじめたのに、またこお姉ちゃんは飄々と追い抜いてはなれていく。
「うええええ」
「優美はやく!」
「ま、まっ、て」
切れ切れの息を吐きながらまたこお姉ちゃんへ駆けよる。そのときだ。ぐらりと船が揺らいだ。
「わあ!」
「優美!」
みぎに傾いた空間に従ってからだが倒れる。もつれた足は支えにもなってくれなかった。ごちん。おでこと地べたがくっついた。くらくらする視界にほしが輝いていて危ないとおもい、あたまをうごかす。
「おい」
「うー」
「なにしてんだ馬鹿」
「…?晋助」
目の前で胡座と、ついでに腕も組む晋助はぎろりと片目でわたしを射ぬいた。正座した足がじんと痛む。部屋の空気がいつもと一変してつめたい。おでこもすこしずきずきして、なんの意味もないけれど前髪でそこを隠した。かっこうわるくて、晋助にみられたくなかった。
「阿呆」
「………」
「船のなかを走るなとあれほど言っただろうが」
「はい…」
「いいか。おまえが毎日あるいて過ごすこの乗り物はな、そらを飛ぶもんなんだよ。所謂足場が不安定なんだよ。それくらい阿呆でもわかるだろ」
「わかります…」
「阿呆が」
「…ごめんなさい」
じわり。視界がにじんだ。わたしがわるいのだから泣くのはおかしいとくちびるをむすぶ。鼻と喉のおくが、あつくなってきた。こんなからだの反応には、大抵わたしが負ける。
「ごめんなさい…ちゃんと、ちゃんということきく…晋助のいうこと、聞く…」
「…はあ」
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
ああやっぱり堪えられなかった。着物にしみをつくっていくなみだがつぎつぎに落ちて、気にいりの柄なのにと自己嫌悪した。晋助がわたしに似合うといって買ってくれた、花をたくさん織りなしているももいろ。お花、枯れちゃったりしないかな。でもなみだは水だから、わたしの渦巻きを吸っても逆にげんきになるかな。
「痛むか?」
晋助の手がおでこにふれて、びくりと肩が上下した。ぶんぶん首をよこに振る。すこし疼いているけどいたくはない。
「なら、何故泣く」
「うっ、う、ぇ」
いたいんじゃなくて、情けないんだよ。晋助のいったこと守らないでおこられたのに、泣いてしまうじぶんが。そう自覚してるのにやっぱり泣いてしまうから、くやしくてふがいない。
「優美」
「…っ、?」
晋助の手が前髪をそっとわけて、隠していたところがあらわになった。なんだろうとみあげれば、目線のさきには晋助の胸元があって、おでこにはやわらかいものがくっついている。
「痛いの痛いの、とんでいけ」
ちゅう、された。