「…う」
「動かすな」
「っや、ゃ ぁ」
「おい、じっとしてやがれ」
「い、いたい…ひ、う、ぅ く」
「すぐ終わる」
「やだぁ こわいよ、こわい…」
や、ばい。おちつけ俺。おちつけ。おちつけおちつけおちつけ食っちまえってちがうちがうちがう。
「う、ぅ」
「おまえが力むからとれねぇんだよ」
「だってこわいんだもん」
もんじゃねーよかわいいんだよこのやろう。ああくそ。俺は欲に溺れに溺れてまちがいを犯すどこぞの下種野郎にはならねえ。たかがすいばりひとつでなってたまるか。
「ふ、ぅ、うぇ〜…」
「だから裸足で畳の上をあるくなと言っただろ」
「ごめんなさあぁい」
しんすけ、なんだか指の裏がじくじくする。事のはじまりはそのことば。ちいさな畳のささくれが埋まった右足の親指を掴み、ピンセットを近づけるもこわがる優美はただ暴れるだけ。おまけに違和感かいたみからか、腰にくる、じゃなく鼻にかかった声をもらすこいつに俺が限界だ。
「取らずにずっと痛えままか、一瞬のいたみで終わるか。どちらがいい?」
「……おわり」
「だったらじっとしてろ。このままだとあと5分でもう二度と抜けなくなる」
「やだあぁぁ」
「取るぞ」
「う、ぅ」
「我慢できるよな?優美は」
「…うん」
「よし」
なんだかんだ言って優美は言うことをきく。足を持ち直し、じっとみつめた。あいかわらずちいさい。
「ひっ」
「もうすこしだ」
「と、とれた…?…ぁっ、んんっ…!」
ああ、嗚呼くそ。俺は野郎にそんな声をきかせてもいいと教えたことなんざねぇのに。
「…とれたぞ」
「う ぅ、」
足袋を履かせてやり、なんとなく、いや理由ははっきりしているのだが右足をかるく叩いた。この健気で愛らしいものを、俺はどうしてやればいいのだろう。
「晋助ー、…うぅ、ありがとう〜」
とりあえず、ぎゅうぎゅうとしがみついて甘えるからだを受けとめた。労りをこめ、髪を梳いてやる。俺が俺でよかった。優美にではなく自分自身へそうつぶやいた。