「焼き芋、山芋、里芋に、…薩摩芋!」

「芋ばっかじゃなく、他も書いてみろ。次、侍は」

「うー、……さ、むらい…さむらい…できた!書けたよ!」

剣、と書いた部分を指差し、わくわくしながら晋助からの答えあわせを求めた。

「それはけん、だ。もう一回」

晋助が、わたしの書いたたくさんの漢字でいっぱいになった紙をとんとんゆびで叩く。漢字のおべんきょうはたのしい。晋助といっしょのものを、いっしょの視点で見るようにきっとなれるから。
むうむう唸ってるとえんぴつをもったわたしの手を晋助がにぎった。晋助の右手がわたしの右手をすっぽり収め、そのままゆっくりと動く。さむらい。書き綴ったことばは、侍。

「にんべんに寺。わかったか?」

「はあい」

「剣が書けるたァ進歩したな」

「うん!」

絵本、煙管、人形、包帯。晋助。優美。たかすぎしんすけ。わたしが書けることばはまだまだ限られている。
ふと、紙の至る所に書かれたひとつの文字が目に入った。無意識に、おんなじことばをたくさん書いていたみたい。

「愛、…あい」

「すきだなァ」

「すきだよ」

愛ってどんなものなんだろう。里芋みたいに丸い形なのかな、山芋みたいに白いのかな。
ひとをあたたかくおもうきもちだと、意味はわかってもそれがどんな色で、どんな形なのか。どこにあるのかまだ分からない。晋助に聞いても、優美はどうだとおもう?とわたしが質問したのに質問が返ってきて、答えを考えたけれどどうしても分からなかった。
でも、愛という文字を書くだけでおもいうかぶのは、いつもいつも晋助のかおだった。だから何度だって書きたくなる。だからだいすきな漢字になった。

「愛ってなにかなあ」

「それが分かりゃ世の人間は苦しまねぇだろう」

「?、そうなんだ」

晋助がわたしに、一番たくさんくれたきもちは、うれしい、かなしい、くるしい どれなんだろう。

「晋助も愛がわからないから くるしんでるの?」

隣に座る晋助を見上げた。よめない表情がさみしくて、わるいことを聞いたのかもしれないと今更気づく。
晋助はしばらくして、わたしのほっぺにふれた。やさしい温度をもった、やさし過ぎる手つき。
そうして、むにりとわたしのほっぺをつまんだゆびに抵抗なんてしない。晋助がわたしにさわってくれるのはすき。晋助はわたしにさわるの、すきかな。おんなじだといいなあ。

「優美は」

「、うん」

「俺が、くるしんでいるように見えるのか」

「…分かんない」

何にも出来ないわたしが晋助のそこ に踏み込むのも、正解を考えることすらも、きっとふさわしくない、そんな気がする。わたしはそれがとっても、 切なくてくるしいの。だからたくさんべんきょうしたい。晋助のみるもの、感じるものをわたしも知りたい。

「わたし、悪いこと言ったよね。…ごめんなさい」

「いい」

「………」

「お前がとなりにいるうちは、苦しいことなんざねえよ」

「ほんとう?」

「本当」

だったらずっと、晋助のとなりにいよう。晋助を信じよう。晋助のそばにいたい。わたしがそうすることで、晋助は苦しまない。なんてうれしいことなんだろう。

「優美、覚えとけ」

「なあに?」

「愛はな、正解なんざ分からねぇでも、ふれることは出来るんだよ」

晋助のおおきなてのひらに両方のほっぺをつつまれた。あたたかい。ねえ晋助 それじゃあわたしが、愛になっちゃうよ。
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