「おじちゃーん、やきいもふたつくださいな」
「まいどありい」
お嬢ちゃんかわいいねえいっこおまけだよ ひとのいいやきいも屋のおじちゃんがかおをくしゃくしゃにしてわらう。晋助にもらったひゃくえんだまをふたつ手渡して、あたたかい袋をもらった。みっつのやきいもがほかほかしている。いいにおいにうれしくなってにこにこ笑った。
「おじちゃんありがとう」
いいひとだ。かるい足取りで表通りをあるく。やきいも買いにいきたい、晋助にそう頼むとおそくならないように言われておこづかいをくれた。ひさびさのそとに、うんとのびをする。夕方の気温はちょうどいい。
「おじょーさん、やきいもひとつくださいな」
「え、あ!」
「久しぶり、優美」
「ぎんちゃん!」
立ち話もなんだしお茶しようか それ摘みに、と提案したぎんちゃんの、やきいもの袋にのびる手を阻止して公園のベンチに並んですわる。
「しょうがないなあ、ひとつだけね」
「やーさすが優美、ありがたやありがたや」
あたまをぎんちゃんのおおきな手でぐわんぐわんゆらされて、すこしくらくらした。ひとつ渡したやきいもをぎんちゃんはひとくち頬張ってしあわせそうにほっぺをゆるめた。
「んーまい。優美も食えよ」
「帰って晋助とたべるの」
「…そうか」
わたしが晋助と出会ったときはまわりにぎんちゃんもヅラもたっちゃんもいた。いまはみんなばらばらになっちゃったけど、江戸やこの世でいつか会えるからこんな関係でもいいとおもってる。
「高杉、元気?」
「うん」
「………」
「しんすけ、やさしいよ。なんだかんだいつもぎゅうしてくれるし、わたしの寝相わるくてもいっしょに寝てくれるんだよ」
「まてまてまて。おまえまさか大人の階段のぼったんじゃねーだろうな」
「かいだん?怖いはなし?」
「あー……おまえら、仲よくやってる?」
「やさしいもん、晋助」
「優美は特別だろ」
わたしにとっても晋助はとくべつ。たいせつで、ずうっといっしょにいたくて、だいすきな晋助。
「ぎんちゃんたちにとって、晋助はわるいほうのとくべつだろうね」
「………」
「でもわたしは晋助だいすき」
「そーかい」
「うん」
ぎんちゃんはやきいもの皮をきれいに剥いてもしゃもしゃたべている。まじめにきいてるのかどうか。けれどもはなしたいだけはなさせてくれるのは、むかしから変わってない。そんなところが晋助とおんなじだ。
「まあ、仲よくやってんなら銀さん安心するわ」
「うん、ヅラにもそうつたえといて」
「会えたらな」
立ちあがったぎんちゃんはおおきい。むかし、くるくるたのしいとあそんでいたパーマがあいかわらずで、でもすこしだけなにかがちがっていてさびしくなった。ぎんちゃんはぎんちゃんでも、わたしのしらないぎんちゃんになってしまったようで。
「なーにしけた面してんだ。おら」
「なあにそれ」
「いちご牛乳、やきいものお礼」
スーパーの袋をぱんぱんにしている正体はそれだったんだ。差し出されたつめたい紙パックをふたつ、受け取る。
「やきいも、わたしひとつしかあげてないよ」
「いいんだよ、高杉と飲め」
「飲むかなあ」
「飲まねーと泣くっていっとけ」
「だれが?」
「俺が」
「飲むかなあ」
「なんでくりかえすんだよ」
ぎんちゃんがわらう。もうむずかしいことはいいや。ぎんちゃんはぎんちゃんで晋助は晋助。これはぜったいぜったい、変わらない。