「万斉さあん」
冷蔵庫へきょうのおやつをとりにいく途中、ろうかで万斉さんにあった。けっこうおおきなこえで叫んだからヘッドホンからのおとを遮ったらしい。こっちへ振りむいて万斉さんは手をふった。わたしも手をふりかえして駆けよる。
「このあいだは、さつまいものケーキありがとうございました」
「どういたしまして、風邪は治ったでござるか?」
「うん!晋助がね、ずっとお手てつないでくれた!」
「それはよかった」
にこにこ。わらうわたしのあたまに万斉さんはてのひらをのせて、ぐわんぐわんとゆらした。
「さつまいもケーキ、おいしかったのならまた買ってきてあげよう」
「ほんとうに!?」
「晋助にはないしょでござるよ」
「どうして?」
「拙者がおこられる故」
こたえになってない気がするからすこし引っかかったけど、とりあえず言うとおりにしておこうと決めた。晋助だってスイートポテトや金平糖やおだんごをプレゼントしてくれるのに、万斉さんがそうしたらおこるのかな。
「わかった」
「よし」
「えへ」
ふたりだけのないしょ。べつになにが起こるわけでもないのにわくわくする。わたしはまだまだこういう冒険家のようなときめきにお熱だ。きょうの絵本は気分にあわせてトムソーヤの冒険をよもう。晋助が買ってくれる絵本はわくわくもどきどきもかなしいのもせつないのも、たくさんある。だから飽きないんだろう。
「万斉さんありがとう」
「優美がよろこんでくれるのなら、鬼兵隊はみなしあわせでござるよ」
「そうなの?」
わたしがうれしいと、みんなもうれしい。それはすごくしあわせなことだ。だって晋助がうれしいとわたしもうれしいんだからわかる。感情のしくみくらい、こだまくらい、わたしだってわかるんだ。