目をあけた。うえを向くとおほしさまたちがきらきら楽しそうにはなしていた。こんにちは。こんばんはかな。ちいさく手を振ってわたしは駆けだした。わたしも仲間にいれて、晋助にきいたおはなしがたくさんあるの。ねえみてみて晋助、おほしさまがいっぱい。
しんすけ?
ぽたりぽたり。そんな音がしたかとおもうとわたしのほっぺになにかが落ちた。なんだろう。そこにふれると手にべちゃりと付いた、つめたくもあたたかくもない何か。色がないそれは次々にわたしへ降ってくる。もういちどうえを向く。そこにはもう、おほしさまの姿はなかった。しんすけ、どこ。おほしさまが消えちゃったの。まっくらになっちゃったの。わたしひとりぼっちなの。こわい、こわいよ。晋助、しんすけ
「優美」
「……」
「優美」
「……ぅ」
「だいじょうぶだ」
ああ。晋助、晋助、晋助。確かなぬくもりが、いつものあたたかさが、ちゃあんとある。
「ゆめ、みた」
「怖かったか」
「うん」
とん とん。やさしいリズムが背中を叩く。布団のなか、晋助にぎゅうとだきついて目をあけた。なみだがぼたぼた零れるからつむっていたかったけど、もう暗いのはいやだった。
「寝言でな」
「………」
「ずっと、俺を呼んでいた」
「し、すけが、そこに、いなかったの」
「 そうか」
「…ひ、く」
「だいじょうぶだから、泣きやめ」
晋助はいつも泣きやめという。でも泣くなとは、ぜったい言わない。それが、そんな晋助のやさしさがわたしはうれしくてうれしくて、甘えてしまうことが、情けなくて。でも晋助はわたしのなみだをぜんぶ受けとって見届けてくれるのだ。
「もし、江戸が壊れようがこの国が沈もうがお月さんが消えようが」
「………」
「せかいが、なくなろうが」
晋助の親指がわたしのなみだを掬った。暗いよるでもわかる。とってもまっすぐ、つよい瞳でわたしをみつめているんだと。
「俺とお前は離れねぇ。あたらしいせかいに、お前を攫ってつれていってやる」
「ほんとう?」
「本当」
どうしてかなあ。晋助がほんとうだといったことは、どんなに現実に背こうと、ぜんぶぜんぶ信じられるのは。
「あたらしいせかいは、お芋畑でいっぱいにしたい」
「してやるよ」
「よるは、おほしさまを近くでみたい」
「ああ」
「春をね、もうちょっとながくしたい」
「なんだってしてやる」
「晋助」
「なんだ」
「ずっと、いっしょにいたい」
なんどもなんども、だいすきな晋助にずっと伝えてきた想いはちいさい頃からそのままだ。
「ずっといっしょだ」
ぜったいにそう返ってくるからわたしはまたなみだを零す。あたまをなでてくれる手があたたかいから、どんどん溢れさせてしまう。でも晋助が、うれしくて泣いてしまうのはおかしくないといったから、わたしは安心して行き場のあるなみだを流すことができる。そっと目をつむった。晋助のぬくもりを抱きながら、わたしはもうひとつのせかいでおほしさまをゆっくり掬った。