「優美、みーつけた」

「………」

「だっていつもここに隠れるじゃないスか」

きょうはぽかぽかあたたかい。ふねの甲板に出てわたしはまたこお姉ちゃんとふたり、かくれんぼをしていた。晋助は万斉さんとおでかけ。倉庫に置かれた机のしたからはい上がるわたしの腕を、またこお姉ちゃんがやさしく引っぱって手伝う。

「だってここくらいだもん、隠れられるの」

「もーすこし考えるっス」

「おなかすいた」

「はいはい、武市変態がお昼作ってるはずっスから」

おねいちゃん、武市せんぱいだよ。武市のおじちゃんが、また子が変態って呼んだときには叱ってやってくださいね、といってたけどどうしよう。ぐいぐい引かれる腕にあしを追いつかせる。艦内へ入って大部屋に近づくにつれ、いいにおいがした。襖を開くと広い部屋に、お膳と丼がみっつ。座布団を敷いていた武市さんがわたしたちに気づく。

「牛丼だあ」

「優美さんほら、手を洗ってからですよ」

「だったら手拭きくらい用意しろよ」

「うるせー猪女」

「だまれ変態」

「おてて洗ってきまーす」

ろうかに出てほわほわ漂う牛丼のにおいを吸う。うれしくなってスキップをしながら洗面所までいそいだ。しろい台に、おおきな鏡。そこに写るわたしへにこりと微笑むと鏡のわたしも笑いかえす。うん、我ながらいい笑顔。洗剤にやさしく洗われたタオルでぬれた手をふく。洗剤じゃなくて柔軟剤だった。

「洗ってきた!食べていい?」

「はい、どうぞ。よく噛むんですよ。つまらせたら大変ですからねそれから火傷でもしたら危ないから最初に私がふーしてさしあげ」

「うるっさいなこのロリコンが!優美、危険だからこっちにくるっス変態がふーしたものなんて食べちゃだめっスよ」

「んだとこのアマ。優美さんにもしものことがあってごらんなさい」

「おめーは考えすぎだっつの!」

「いただきまあす」

ぎゃあぎゃあさわぐふたりをみて笑う。このふたりはほんとうに仲がよくて、おもしろいなあ。お箸を手にほくほく湯気をのぼらせるごはんとお肉を頬張った。かみしめると、とたんにひろがる味。あまい玉子とたまねぎもすこしつまむ。

「おいひいー!」

「ああっいつのまに!」

「それはよかった」

「またこおねいちゃん!おいしい!」

「はいはい、食べるっスから」

ふたりがわたしのことばに促されてお箸をもった。食べてなんて言ってないけど、わたしがおいしいものは誰かとたべたいのだとよくわかってくれている。

「いただきます」

「いただきます。またこさんあなたそんな挨拶できたんですね」

「いちいち口つっこむな腹立つっス。むかし、優美に言われたんスよ」

またこお姉ちゃんが牛丼にがっつく姿はかっこいいなあとおもった。まだやまない湯気をお箸でくるくるまわす。晋助がこの場にいたら行儀がわるいと叱られていただろうな。

「いただきますは、言わなきゃだめだよふたりとも」

晋助がいってた。命をもらうわたしたちが、命へいただきますと感謝するのは当然なのだと。いただきますは命をいただきますという意味なんだと。この牛肉だって息をして足で立っていた牛だった。たまごもいつかひよことして生まれるはずだったのだ。

「お肉、おいしいねぇ」

「そっスね。やっぱ肉は牛肉ス」

「残さずたべるんですよ」

命のおかげでわたしたちは生きていられることをわすれない。空になった丼に手をあわせてごちそうさまをした。いまさらだけど、できるだけしいたけを克服しようとこころに決めた。
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