Lust | ナノ

大きく溜息を漏らした峯はノートパソコンをパタンと閉じてしまうと、ゆっくりと眼鏡を外した。
閉ざしたパソコンの上にその眼鏡を静かに置くと、峯の右手の人差し指がワイシャツとネクタイの結び目の間に割り込まれる。
左右に大きく指が振れるように動くと、きっちりと結ばれていた峯のネクタイがだらしなく緩んだ。
気だるそうな動きはそのままでデスクの引き出しから煙草を取り出した峯は、手馴れた手つきで火をつけると何とも不味そうな表情を浮かべて紫煙を吐き出す。
その表情を見ずとも峯が疲れているとなまえが理解できるのは、そもそも普段一緒に居る時は吸わない煙草を吸っているからというのが一番の理由だった。


「あの…峯さん、」
「…なんです?」
「忙しい時は、私との約束なんて気にしないでください…」


峯さんに逢えないよりも、峯さんが無理してる事の方が辛いですから。
申し訳なさそうに項垂れるなまえを横目に、峯の口からは再び溜息が漏れる。
恐る恐るといった様子でなまえが視線を峯に送ってみると、まだ長さの残る煙草を灰皿に押し付ける峯が呆れたと言わんばかりになまえの視線を受け止めた。


「まったく…さっきから何を気にしているのかと思えば…」


そんなくだらない事ですか。
さもつまらないと言わんばかりに鼻で笑うと、峯はゆっくりとした動きで立ち上がり、ちんまりとソファに腰掛けていたなまえの元へと歩み寄った。
峯の動きを視線で追い続けるだけで何も出来ずに固まっているなまえを余所に、峯は左膝を座るなまえの隣に深々と沈め、右手でそっと困惑の表情を浮かべるなまえの頬に触れた。
右手と左足の間に閉じ込めるようになまえの両側を押さえると、そのまま峯はゆっくりとなまえに顔を近づけてゆく。
ともすればキスしてしまいそうなほど近くに顔を寄せ、じっとなまえを見つめる峯の視線に耐え切れず、なまえは俯く事でその視線を逃れようとした。


「なまえ、」
「っ、はい…」
「俺が何時、無理をしてると言いました?」
「言…って、ません…」
「俺の束の間の休息、勝手に奪わないでもらいたいものですね」
「峯さ…っ、」


なまえの唇を塞ぎながら、峯の舌先が捩じ込まれる。
ソファに片膝立ちのまま峯がなまえの身体を背凭れに深く沈めると、伸ばされたなまえの両腕がダークブラウンのスーツに皺を刻んだ。
その程度の抵抗で行為を止める気など更々無かった峯は、深い口づけの合間にネクタイをすっかり外し、シャツのボタンも二つほど外した。


「っ、え…峯さん…っ、待っ…」
「待ちません。…何か不都合でも?」
「だ、って…ここ、事務所…っ、あ…」
「ええ…ですから何か問題でもあるんですか?」


どうせここには、俺と貴女しか居ませんよ…。
抵抗を見せるなまえなどお構いなしになまえの服に手を掛け始めると、指が走るたびになまえの口からは甘い声が漏れ始める。
その様子に気分良く笑みを浮かべながら、峯の唇はなまえの柔らかな首筋へと喰らい付くように唇を落としていった。
ぬるりと舌を這わせると、峯はその都度跳ねる華奢な身体が愛おしくてならなかった。


「なまえ、良いんですか?もう抵抗しなくても…」
「っ、も…意地、悪…っ、」
「それくらい、知っていたでしょう?」


貴女を前にした俺が、どれほど無様で格好悪い男かくらい…。
眉間に寄せられたいつもの皺が、何時しか違った意味合いを持ち始める。
不機嫌そうなものからなまえを求める切なげなものへと変わったその表情に、なまえの鼓動が速度を上げた。
今度は自らねだるように口づけを求めるなまえに、峯の口元には柔らかな笑みが浮かぶのだった。

性的衝動

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