Lust | ナノ

夕暮れ時、突然冷え込んだ空気に思わずなまえが身震いすると、そんな様子を横目に峯がわざとらしい溜息を吐いた。
はぁ、と盛大な溜息に峯の様子を伺うと、呆れたといわんばかりの峯の瞳がなまえを見つめていた。


「そんな薄着で来るからですよ」
「天気予報では…こんなに冷え込むって言ってませんでしたもん…」
「まったく…貴女は本当に世話のやける人ですね」


するりと峯の首に巻かれたマフラーが解かれてゆくのを見つめているうちに、なまえの首元には今しがた峯の首を離れたばかりのマフラーが巻きつけられてゆく。
ほんのりと峯の温もりに混じって漂った峯の香りに、なまえの胸がきゅっと締め付けられた。
肌に触れる感触も柔らかく、思わずなまえは顔を埋めるように峯が巻いてくれた彼のマフラーに浸った。


「あの、良いんですか?」
「仕方がないでしょう、貴女に風邪を引かれるよりはましです」
「ありがとうございます。あったかいです、とっても」
「…そう、ですか」


ふかふかのマフラーの肌触りを頬や鼻先で堪能するなまえに、呆れ顔だった峯の表情も柔らかなものへと変わる。
嬉しそうな笑顔で峯さんの匂いがします、なんて頬を緩めるなまえに、峯は不意に照れくささすら覚えるほどであった。


「俺が風邪を引いたら、貴女のせいですよ」
「あ…そうでした…。ごめんなさい、浮かれちゃって」
「いや…、」

もしそうなったら、看病してくれるんですよね?
ぐっと顔を近づけながら問うた峯に、なまえは言葉を失った。
整った峯の顔と真剣そのものという瞳に、なまえの心などいとも簡単に峯に操られてしまうのだ。
小さく何度も頷くことで意思表示をしてみせると、右の口角を微かに上げながら峯がなまえの頭をぽん、と撫でる。


「さて、そろそろ車まで戻りましょうか」
「は…はい、」
「ほら…手も冷たくなってる」


峯の左手がなまえの右手を掴んだ途端、冷え切った指先にじわりと峯の体温が伝わった。
あまりにも冷たくなっていたなまえの手には、峯の熱は痛いくらいに熱かった。
絡めるように繋がれた互いの指先に照れる暇もなく、なまえはそのまま峯に手を引かれて神室町の地下駐車場へと並んで歩く。
手を繋いでいる時間も、峯のマフラーに包まれている時間も愛おしくて、自然となまえの足取りは重くゆっくりとしてしまう。


「なまえ…もう少し早く歩けるでしょう?」
「ん、と…もうちょっとだけ、峯さんと歩きたくて…」
「…本当に貴女って人は…」


仕方のない人だ。
峯が零したその台詞には、呆れよりもどこか優しい響きが混じる。
少しだけですよ、と告げた後で、峯は地下駐車場への最短ルートを避けると敢えて遠回りな路地を曲がった。
パッと笑顔を咲かせるなまえの視線を逃れた峯は、それでも歩くスピードをゆっくりと落としてやるのだった。

その香りも温もりも

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