Lust | ナノ

なまえとの待ち合わせ時間の5分前、ミレニアムタワー前に到着した大吾が辺りを見回すと、その視界の中にはなまえは居なかった。
いつもであれば10分以上前に到着しているなまえがまだ着いていないのは珍しい。
何かあったのだろうか、と携帯を確認してみるも、新着メールも着信履歴も特に表示はされていなかった。
まぁ、まだ5分は時間があるし。
心の中で呟いて空いているベンチに腰を下ろしてぼんやりと人通りを眺める大吾は、白いダウンのポケットに手を突っ込んで無意識のうちになまえの影を探していた。


「だーいごさんっ」
「っ、と…」


ほぼベンチに座ったと同時になまえの声が耳元で聞こえたかと思うと、背後から回されたなまえの腕が大吾の首元に抱きついた。
ぐん、と前につんのめりそうになった身体を間一髪で立て直して振り返ると、愛しいなまえの愛らしい笑顔が振り向いたすぐ目の前に広がっていた。
思った以上に近いなまえの顔にどきりと心臓が音を立てたのは言うまでもなく、冷静を装うまでの一拍の間に大吾の視線はなまえの柔らかそうな唇に釘付けになっていた。


「なまえ…脅かすな」
「ごめんなさい。大吾さんの後姿見たら、つい抱きつきたくなっちゃいました」
「お前、今までどこに居たんだ?俺が着いた時は居なかった気がしたんだが…」


するりと大吾の身体から離れてゆくなまえに名残惜しさを感じていると、にこにこと楽しげに笑うなまえは隠れてました、と告げながら大吾の隣に腰を下ろした。
どうやらなまえは最初から背後から抱きつこうと思っていたらしく、目的を達成できて嬉しいですと、それはもう満面の笑みを大吾に向けた。
そんな小さな悪戯心ですらも、なまえが見せるとどうしてこうも愛おしいのだろうか。
にやけてしまいそうな口元を無理矢理引き締めると、大吾は少し乱暴になまえの頭を撫で回した。


「まったく…いい度胸だな、なまえ」
「だって、大吾さんが私を待っててくれるのが嬉しくて」
「嗚呼…悪いな、いつも待たせちまって」
「いいんです、だって大吾さんを待ってる間はずっと大吾さんのことだけ考えていられますから」


楽しいですよ、好きな人を待ってる時間って。
あまりにもサラリと、そしてあまりにも幸せそうに告げられたなまえからの言葉に、大吾は言葉を失った。
なまえの頭を乱雑になでていた手もぴたりと固まって、ともすれば公衆の面前である事を忘れてなまえを抱きしめたい衝動に駆られたほどであった。
顔だけでなく身体中が熱くなったのは、間違いなくなまえの一言のせいであろう。
もしかしたら呆けた顔が真っ赤に染まっているんじゃないだろうか、と大吾は慌ててなまえから顔を逸らした。


「っ、とに…」
「…?」
「いや、お前は本当に…簡単に俺の心を掴んじまうな」


たまんねぇわ、ホント。
愛おしそうに目を細めてなまえを見つめながら、大吾の手はするりとなまえの頬を撫でた。
照れくさそうにはにかみ笑いを見せるなまえにぐらりと眩みながら、名残惜しい気持ちをぐっと堪えて大吾はなまえの頬から指を引き離す。
そろそろ行くか?となまえに問えば、大きく頷きながらなまえがはい、と返した。
二人でベンチから立ち上がると、大吾はすかさずなまえの手を取ってダウンのポケットに繋ぎ合った互いの手を押し込んだ。


「手、ずいぶん冷たいな」
「でも、大吾さんが手繋いでくれてるから、すぐにあったまります」


大吾さんのダウンのポケット、すごくあったかいですし。
弾むような足取りで告げられた言葉は、なまえの足取り同様嬉しそうに弾んでいた。
ポケットの中で絡め合うように繋がれた互いの手は、どちらともなく自然と強く握られてゆく。


「あのね、」
「ん?」
「大吾さんとのデート、私すごく楽しみだったんです」


今日は久しぶりに、大吾さんのこと独り占めしちゃいますよ。
そう告げながらパッと大輪の花が咲いたかのような眩しいほどの笑顔を浮かべるなまえに、大吾の心は面白いほどに鷲掴みされるのだった。

冬空の下で待ち合わせ

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