Lust | ナノ

なあ六代目、お前なまえチャンの前やと威厳なさすぎやで。
ニヤニヤ顔の真島の言葉が、いつまでもいつまでも大吾の耳の奥で鳴り響く。
確かになまえの前では必要以上に口元が緩んでいたのは事実だが、それにしたって余計なお世話である。
ふとした瞬間に蘇る真島の声が、やたらと大吾を苛つかせる。
ブスッとしたまま心の中で真島に悪態を吐いていると、不安げな表情のなまえに顔を覗き込まれた。

「あの、大吾さん…怒ってます?」
「いや…そんなことはない」
「でもあの…ここ、」


スッと伸ばされたほっそりした指先が、大吾の眉間にちょんと触れる。
ぎゅってなってます、と告げる落ち込み気味のなまえの声に、大吾は慌てて首を振った。
嗚呼もう、真島さんのせいで…と、なまえを心配させる要因になった真島の一言がいちいち恨めしい。


「違うんだ、なまえ。その…少し考え事をしてて…」
「じゃあ…怒ってないんですか?」
「すまない、折角一緒に居るってのに余計な事考えちまって…」
「いいんです。これ被ってもらったから、私が怒らせちゃったのかなって心配だっただけなんです」


にこりと微笑むなまえに、大吾の必死に引き締めていた口元もだらしなく緩む。
六代目としての威厳なんて、別になまえと居るときには必要などないのだと、きっぱり腹を括ればどうということはない。
可愛い彼女を前に微笑ましい気持ちにならない方が不自然じゃないか、と心の中で真島に楯突くと、大吾は心置きなくなまえに笑顔を見せた。


「やっぱり大吾さん、似合いますね」
「あぁ…あんまり、嬉しくない気もするが…」
「ふふ、とっても可愛いです」


ショッピングを楽しむなまえと共に入ったショップで大吾が被らされていたのは、犬の顔がついた茶色でモコモコの帽子だった。
対峙するなまえはというと、白い猫の顔をした同様の帽子を被っているのだが、なまえが被ると不思議と可愛くて仕方がない。
ほら、可愛いです!と鏡の前に連れて行かれると、バリッと決めたスーツにはあまりにも不似合いな帽子が滑稽である。
否、これは帽子というよりは単なる被り物なのだ。似合って堪るか、という本音が湧き上がるが、なまえがあんまりにも気に入っているせいで大吾は無下にも出来なかった。


「大吾さん、おそろいで買ったら一緒に被ってくれますか?」
「いや…俺は……」
「あ、やっぱりダメですよね…」


しゅん、となまえが俯くと、自然となまえの被った猫帽子の耳までもが悲しげに伏せたように見えてしまう。
何をしても可愛くて仕方がないと思ってしまう自分は相当重症だな、と大吾は落ち込むなまえを抱きしめたい衝動に駆られてしまう。
だが、ちらりと鏡に目をやれば、およそ東城会六代目とは思えぬ己の姿に、またしてもにやけ顔の真島が大吾の脳裏に現れる。
なまえの喜ぶ顔を取るか、六代目の威厳を取るか…葛藤する心を代弁するかのように漏れた唸り声に、突然なまえがくすくすと笑い出した。


「大吾さん、冗談です。だからそんなに困った顔しないでください」
「なまえ…お前、」
「だって、大吾さんがあんまり悩むから」
「あんまりからかうなよ…」


そういう可愛い大吾さんも好きですけど、やっぱり私はカッコイイ大吾さんの方がいいな。
ちょっと背伸びをしながら大吾の犬帽子を外すなまえに、不覚にも胸がときめいた。
嗚呼クソ…やっぱりなまえは可愛いわ…。
心の中で悶えるように呟く大吾は、にやけだしそうな口元を必死に引き締めるのだった。

Oh, My Sweet Devil

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