Lust | ナノ

つい先ほどまではにこにこと上機嫌でなまえに接していた真島は、冴島と合流した途端にあからさまなほど不機嫌そうな態度をなまえに取り始めた。
急激な機嫌の落差になまえがポカンとしていると、ぶすっとした真島に隠れながら冴島がどないしたんやと小さな声でなまえに問いかけた。


「何やなまえ、真島と喧嘩でもしたんか?」
「いえその…さっきまではすごく楽しそうに笑ってたんですけど…」


ひそひそと言葉を交わしていると、そんな二人の様子も気に入らないのか、真島は判りやすいほどの舌打ちをしながらなまえをギッと睨みつける。
その視線の鋭さにびくりとなまえが身体を竦ませると、その異様なほどの真島の態度に何かを察した冴島はくつくつと笑い声を漏らした。


「何やねん冴島、笑うたりしよって…」
「何て…そら笑うやろ」
「あの、真島さん…?」
「うっさいわ、なまえは黙っとき」


声を掛けるや否やぴしゃりと撥ね付けられたなまえは再びびくりと身体を竦ませると、今度はしゅんと目に見えて項垂れた。
真島の機嫌の波がまったくもって判らないなまえとしては、いっそはっきり言ってくれと心の中で真島に叫びたいほどである。
そして、何やら事情を察した様子の冴島に対しても、一人でくすくす笑うなんて薄情だと悪態を吐きたい気持ちでいっぱいだった。
なんならいっそ喧嘩していたのは真島と冴島で、なまえ自身はその喧嘩に巻き込まれた被害者なんじゃないだろうかと理不尽な現状を整理したい気持ちが沸き起こる。
落ち込みながらも恨みがましい目でちらりといち早く現状を飲み込んだ冴島に視線を投げかけると、冴島より先になまえの視線に気付いた真島が再びわざとらしいほどの溜息と共に不機嫌を撒き散らした。


「何やなまえ、冴島に言いたいことでもあるんやったらはっきり言うたれや」
「あの…そういうわけじゃ…」
「ほな、どういうわけでそんな目ェして冴島に縋ってんねん」
「っ、も…真島さん…」


怒った、というよりは拗ねた真島と笑いを噛み殺す冴島の真逆の反応が一層なまえを混乱させる。
困惑したままでチラチラと二人の様子を伺うなまえに、堪えきれずに噴出して笑った冴島がポン、となまえの背中を撫でた。


「なまえ、気にするだけ無駄や」


コイツな、単に俺の前でカッコエエとこ見せ付けようとしとるだけやねん。
ぶはっと笑い出した冴島に、何のこっちゃ判らんわとそっぽを向いて悪態を吐く真島の耳は微かに赤く染まっていた。
冴島の前でデレデレした姿を見せたくないというくだらない見栄の表れだとご丁寧に説明してくれる冴島に、真島は真島で背を向けたままで勝手に言うとれ阿呆とぼそりと呟いた。
だが、突然の不機嫌の理由が本当にそんな馬鹿げた理由なのかと疑ってやまないなまえとしては、にんまり笑って説明する冴島の言葉も怪しく思えてならないのである。


「冴島さん、それはないですよ」
「ないわけないわ。兄弟な、俺が言うたこと気にしとるみたいなんや。せやからこんなガキみたいな態度とりよんねん」


嶋野の狂犬言われた男がなまえの前やとまるで尻尾振り回してはしゃぐ飼い犬やなって、この間真島に言うたったんや。
大爆笑を必死に喉元で堪えながら冴島が話す事実に、何故かなまえの顔が熱くなった。
普段自分と居るときの真島が他の人の目にそんな風に映っていたのかと思うと、途端になまえは幸福感に包まれた。
なまえと冴島に背を向けたままで知らん振りを決め込む真島の背中をじっと見つめていると、冴島の大きな手が再びなまえの背中を優しくポンと撫でる。


「ホンマ困ったもんやな、男言うんは阿呆すぎてかなわんで。なぁ、兄弟」
「煩い男やで…どこまでペラペラ喋ったら気ィ済むねん」


好いた女の前と居る時に嬉しない奴がどこに居る言うんや。
振り返りもせずに告げられた真島の言葉は、頬を染めるなまえの心臓をさらに高鳴らせるには十分すぎる一言だった。
優しい笑顔を見せる冴島と目が合うと、なまえは一層赤く顔を染めるのだった。

Chihuahua

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