Lust | ナノ

「なまえチャン、か?どないしたん?」
「真島、さん…」


雨の中、見慣れた後姿に声を掛けると、傘も差さずに佇んでいた彼女はゆっくりと真島へと振り返った。
振り返ったなまえを真正面からハッキリと捉えてみれば、明らかに雨の雫とは異なるものが頬を伝って流れていた。
その雫の違いを一目で見分ける事が出来たのは、なまえの瞳が真っ赤に充血していたからだった。


「風邪引いてまうで、早よコッチおいで」


華奢な手首を掴み広げたビニール傘の中へと引き入れてやるが、真島の触れたなまえの身体が異様に冷たく、改めて驚きを覚えた。
すっと涙を拭ってやるも、俯き加減のなまえは真島とは目を合わせようとはせず。
それどころか、拭った先から熱い雫がなまえの頬を伝って真島の指先を濡らしてゆく。


「桐生チャンが原因か?こないになまえチャン泣かして…何やったら、俺が桐生チャンしばいたる。な?」
「…いいんです、もう」
「そんな…ええことなんてあれへんがな…」


ふるふるとなまえが頭を振ると、濡れた髪から雫が飛んだ。
桐生が女の香りを纏って帰って来たこと、相手が付き合いで行ったというような夜の仕事をしている人ではなかったこと、行動を共にして居るうちに気持ちが流れてしまったこと。
詫びられて、抱きしめられたけれど受け入れられなかったこと、逃げるようにして飛び出してきたこと、足が自然と真島の居場所へと向いてしまっていたこと。
肩を震わせながら消え入りそうな声で事情を説明するなまえが不憫で、真島は傘を放ってなまえの冷えた身体を抱きしめた。


「せやったら、俺のとこに来たらええ。なまえチャンにやったら…利用されても構へん」
「そんなこと…出来ないです……」
「いや、ちゃうな。利用してくれ、俺のこと」


うん、言うまで離してやらん。
ぎゅうっと力いっぱいなまえを抱きしめてやると、一瞬置いてなまえの腕が背中に回された。


「なまえチャンの気持ちが落ち着くまででもええし、桐生チャンを忘れたいんやったらそのためでもええ。俺が傍に居たるから、存分に使うて構わん。な?」


弱った心に付け込む卑怯者だと自嘲しながらも、なまえを抱きしめた腕を離す勇気など真島にはなかった。
やっと触れることが出来た愛しい存在を、自ら手放す事など微塵も考えはしなかったのだ。
ごめんなさいと繰り返しながら強く己に縋るなまえを、真島の手が優しく擦る。
利用されても良い、傍に居たい。
小さく愛しい温もりを包み込みながら、真島は何度も何度もなまえの頭を撫で続けるのだった。

あの子が欲しい

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