Lust | ナノ

どんな人混みの中でもなまえが桐生を見失わずにいられるのは、桐生の細やかな気遣いがあってこそである。
今さら気付いた、という訳ではないが、決して短くはない付き合いの中で今でも桐生の心遣いを感じ取る事が出来るという事実が単純になまえには嬉しい事だった。
歩くペースのひとつを取っても、なまえの歩幅に合わせて桐生はゆったりと歩いてくれる。
あまりにも人が多い中を進むときは、さり気なく桐生の手がなまえの手を掴んでくれる。


「桐生さん、」
「ん…早かったか、歩くの」
「違うの、ただ…桐生さんはいつも優しいなって思って」


なまえよりも一歩先を歩いていた桐生は、先ほどから時々ちらりと振り返ってはなまえの存在を確認していた。
あまり離れ過ぎないように、でもなまえよりもほんの僅かに前を歩いて道を示すように。
なまえは桐生の大きな背中に守られているような感覚に、自然と顔を綻ばせた。


「どうした、笑ったりして」
「だって、桐生さんと一緒に出かけるのすごく好きなんですもん」


幸せを噛み締めてただけですよ。なまえがそう告げると、ふっと桐生も笑顔を見せた。
さり気なく絡められた指先から伝う桐生の体温が、なまえを心から安心させる。
きゅうっと大きな桐生の手を握り返しながら、なまえはただ桐生の広い背中に心を奪われるのだった。

そっと、ずっと

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