Lust | ナノ

お茶でも淹れましょうか、と問うなまえの手首を掴むと、勝矢は力任せにその華奢な手を引き寄せた。
ソファに座る勝矢の足の上に倒れ込むなまえの身体を抱き締めると、勝矢は彼女の柔らかな髪に顔を埋めてふっと溜め息を吐いた。


「漸く一日がかりの休みが取れたんだ、そう落ち着きなく動き回らずに座ったらいいでしょう」
「っ、判りましたから…もう離してください」
「何故?」


ソファと勝矢の膝に中途半端に体重をかけながらなまえがもがくが、勝矢の腕はびくともしない。
寄りかかるなまえの重さを涼しげな顔で受け止めながら、柔らかな髪から香る仄かな香りを楽しむように、勝矢は鼻からすぅっと息を吸い込んだ。
確かに勝矢の言うとおり、一日単位の休みが合ったのはかなり久しぶりであった。
久方ぶりの二人きりの時間と言うのは往々にして気恥ずかしさと緊張感を齎すもので、それは今日この日も例外ではなかった。
その気恥ずかしさを紛らわすために小忙しく動き回って気を紛らわせようと思っていたなまえにしてみれば、その思惑は簡単に破られてしまったも同然であった。


「少しは俺の傍に居なさい」
「勝、矢さん…っ」
「お茶を入れている時間すら、今は惜しい」


強くなまえを抱き締める両腕と、優しく耳元で囁く低音が、なまえの胸を締め付ける。
この数日間ずっと恋しいと思っていたものが同時に手に入った嬉しさと、抱擁の先への期待が自然となまえの鼓動を早めてゆく。
勝矢の言葉に従うように抵抗をやめると、なまえはそっと彼の身体に体重を預けた。


「寂しい思いをしましたか」
「いえ、平気です。勝矢さんが忙しいのは最初から判ってましたから」
「…そうか」


なまえの頭に触れた勝矢の掌が、ぽんぽんと優しく撫でる。
その感覚が心地良くてなまえがそっと目を閉じると、その間にも勝矢の手は何度も何度もなまえの髪を撫でてくれた。
少しずつ解れてゆく緊張感と、そのことで生じた安心感がなまえにもっと触れられたいという欲すらも湧き上がらせる。


「…勝矢さん」
「なにか?」
「え、と…やっぱり何でもないです」


ぎゅうっと勝矢の胸に擦り寄ると、なまえの耳元にゆったりとした鼓動の音が響く。
とくとくと音を刻む脈動と頭を撫でる優しい手付きを感じているうちに、勝矢が笑った気配が感じられた。
両手を勝矢の脚の上に着いてのろのろとした動きで上半身を起き上がらせたなまえの目には、どこか嬉しそうな勝矢の表情が映った。


「遠慮せずに言えばいい」
「あ、の…いいんですホントに。何でもないので…」
「そんなに物欲しそうな顔をしておいて、何でもないはずないでしょう」


ほら、こっちに来るといい。
対峙するなまえの後頭部をそっと引き寄せると、勝矢は戸惑うなまえに構うことなく口づけをした。
二度、三度と触れるだけの口づけが幾度も繰り返され、少しずつなまえはその程度では満足できなくなり始める。
自ら望んで舌先を勝矢の咥内へと差し入れると、口付けながら勝矢がくすりと笑ったのが判った。


「最初からこうしたいと言えば良かったのでは」
「っ、ん…ぁ、」
「それとも、俺からねだって欲しかった」


ねっとりと舌を絡めあう合間に問われる言葉にも、なまえの口からは吐息しか漏れはしない。
口付けながらまるで子供を抱き上げるように軽々となまえの身体を抱き上げると、勝矢は慌てるなまえに目もくれずに寝室へと足を進めるのだった。
一分一秒

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -