Lust | ナノ

携帯電話から響く音に手を伸ばすと、着信はなまえからのものだった。
深夜を回り、桐生にとってはそれほど遅い時間とは言えないものの、なまえにとってはそれなりに遅い時間と言える時間帯に差し掛かっている。


「なまえか?」
「あ…桐生さん、起きてました?」
「まあな。…どうかしたか?」
「うん……」


どうやら彼女は室外に居るらしい。車のエンジン音や微かな喧騒が、電話越しに漏れ聞こえてくる。
誰かと飲んでいたのだろうか、とも考えたが、それにしてはどうも声が沈んでいる。
促すようにもう一度彼女の名を呼んでみると、なまえはようやく口を開いた。


「あの、ね。眠れなくて…」
「ああ」
「あの…怒らないでね?」
「怒らねぇよ、どうした?」
「今ね、もう…家の前に居るの、桐生さんの」


携帯を手にしたままで部屋を出て玄関を開けると、その言葉通りなまえはドアの前で膝を抱えてしゃがみこんでいた。
その姿を直接確認してから通話を切ると、桐生は空いた手でなまえの頭を撫でてやった。
びくりと身体を竦めるなまえに、桐生の唇からは溜息が漏れる。


「こんな時間に一人歩きなんてするな」
「ごめん、なさい……」
「来るなら先に連絡しろよ、迎えに行ってやるから」


膝を抱えるなまえの腕を掴んで立ち上がらせると、桐生はそのままなまえを部屋の中へと招き入れる。
無言のまま桐生に付き従うなまえは、桐生の部屋に入るや否や彼の広い背中に抱きついた。
ほんの少し香った煙草の匂いに、何故だか急になまえの涙腺が緩む。


「ごめんなさい…。私、どんどんわがままになってく……」
「構わねぇよ。いいから今日はもう休め」


俺ももう休むから。そう言って身体を捩りながら、背中に縋りつくなまえを引き離す。
改めて真正面からなまえを抱きしめてやりながら、桐生はなまえの髪を指で梳いた。
なまえは知らないだけなのだ。わがままになっていくのはなまえだけではないということを。
生乾きの髪から香るシャンプーの香りに眩みそうになるのを抑えながら、桐生はゆっくりとなまえをベッドへと誘うのだった。


眠れない夜には

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