Lust | ナノ

同じ部屋に居ても、別々のことをしながら過ごす事は良くあることだった。
なまえはパソコンに向かってネットサーフィンをしていたし、真島は少し音量を高めに大好きだというゾンビものの映画を見ていた。
それは普段からそうだったし、一緒に居るからと言って必ずしも二人隣り合っていなければいけない訳ではないのだから、互いに当たり前だと思っていた。
真島が大画面で映画を楽しむ為に照明を落とした部屋は薄暗く、なまえはその事には何も触れずに薄暗い部屋でパソコンに向かっていた。
ちょうど真島に背を向けた状態でモニターを見つめているなまえには、真島の様子などは気配でしか感じ取れない。
ただ、それでも真島がテレビに対面するソファに深々と身体を沈めて画面に噛り付くような視線を向けているであろう事は容易に想像がついた。


「やっぱこういう単純な映画ちゅうのはエエもんやなぁ」
「そうですねー…」


モニター上に並ぶ文字を目で追っていたなまえの返事は、自然とお座成りなものになってしまう。
スピーカーから響く気味の悪い呻き声やおどろおどろしい効果音で、なまえの呟きが真島の耳に届いたのかどうかは定かではなかった。
そもそも真島の発した言葉もひとり言だったのかもしれない、という頭があったせいか、なまえの返事はいつも以上に適当なものだった事は否めない。
だから、本来映画を見ているであろうはずの真島がなまえの背後に忍び寄っていた事も、なまえに気付かれずにその背後からぎゅっと腕を回してきたことも、なまえにとっては心臓が跳ね上がるほどに驚くべき事であった。


「わっ!もう…ビックリするじゃないですか」
「何やねんな、さっきからずーっとパソコンに噛り付きよって…」


どくどくと速さを増して脈打つ心臓をそのままに首だけ振り返ると、なまえの直ぐ目の前にはむくれた顔をした真島の表情が浮かんでいた。
突き出された唇と、微かに膨れた頬。それが良い歳をした大人の見せる表情とは思えず、なまえの口元が緩む。
狂犬が聞いて呆れるじゃないかと思ってしまうほどに、なまえと居る時の真島は子供のような幼い一面を見せるのだ。
ただ、そんな幼い振りをしてみせる表情のひとつを取っても、なまえはついつい愛おしいと思ってしまう。


「構ってくれへんと寂しいやんか」
「楽しそうに映画見てたのに、ですか?」
「阿呆、そんなんは楽しそうな振りやろ」


なまえに絡みついた腕にぎゅっと力が入る。
左の頬に擦り寄るようにくっついた真島の右頬と顎の周りを縁取るような髭が、ちくりとなまえの柔肌に刺さった。
その感触から逃れようと身を捩っても、真島の両腕は緩まる事を知らず。一層強く抱きすくめられると、頬には僅かに痛みが走った。


「なぁ、なまえ」
「はい」
「一人やと寂しいから、コッチおいで。な?」


囁くような声にどきりと心臓が音を立てたのを感じながら、なまえがゆっくりと真島の顔を見つめると、その独眼は柔らかな色を纏っていた。
その優しい目に見つめられるのがどこか気恥ずかしくて、なまえは真島の視線を逃れるように自ら真島の首筋に腕を絡めると、先ほどまで真島がしてくれていたように彼の身体を引き寄せるように抱き締めた。
なまえが真島に抱き縋ると、それを受けて真島がくすりと吐息を漏らすのが感じられた。


「一緒に居ってな」


返事をするよりも早く、なまえの身体に訪れた浮遊感。
軽々と己を横抱きにする真島にいざなわれたそこは、先ほどまで真島が一人で映画を見ていたソファの上だった。
ちょこんと座らされたなまえの脇には、すっかり寝転がるようにして真島が身体を沈めた。
未だにおぞましい呻き声が響く部屋の中で、なまえは仰向けに転がった真島の上へとそっと身体を重ねるのだった。
ひとりぼっち、ふたりぼっち

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