Lust | ナノ

食事の帰りのこと。
少しアルコールの入ったなまえを、もう遅いからと桐生が送ると言い出した。
もちろんそれはいつもと同じ会話のやり取りだったのだが、桐生を見つめるなまえの視線だけがその日は少し違って見えた。
なまえもアルコールが入ったとはいえ、もちろんごく少量である。
そんななまえに合わせて、桐生も今日は控えめに飲んでいたつもりであった。


「いつものところまででいいのか?」
「はい…」


なまえの指先が、そっと桐生の指先に触れる。
駅の方へと歩き出す桐生のペースはいつもと同じなまえに合わせた速さだったのだが、どうにも今日はなまえの歩みが遅い。
指先に触れたなまえの手を取ってみると、なまえもそれに応えるように桐生の手を握り返す。


「どうした、急に黙って」
「なんでもない、です」
「なんでもない奴が、そんな顔するな」


足を止めて振り返った桐生の目には、どこか艶っぽいもの欲しげな顔のなまえが映る。
どうしてか今日は、なまえの視線がひどく熱を帯びているように思えてならない。
その視線にぞくりと背中に痺れるような感覚を覚えながら、桐生は努めて冷静になまえの言葉を待った。
軽く握られていただけの指先をなまえが絡めるように繋ぎだしただけで、桐生の余裕が吹き飛びそうになる。


「桐生さん…私まだ、帰りたくない」


今夜はもう少しだけ、一緒に居させてもらえないですか?
遠慮がちに瞳を覗き込まれ、思わずくらりとめまいを感じる。
いつからなまえは、こんな熱っぽい視線で男を誘う事を覚えたのだろうか…。


「しょうがねぇな…じゃあ、今日は俺の家に泊まるか?」


こくりと頷くなまえの耳が真っ赤に染まっているのを横目に、桐生は絡め合うように繋がれたなまえの手を引いて歩き出す。
僅かに早まる足取りをなまえに悟られないように、ただひたすら表情を殺しながら。


君の愛で俺をあんまり熱くしないで

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