Lust | ナノ

部屋着姿の柏木は、Tシャツにスエットというラフな格好で三本目のワインを飲み干そうかという所だった。
ソファに隣り合って同じく真っ赤な液体をちびちびと口に含んでいたなまえは、底なしに飲める彼のアルコールの強さに苦笑が漏れた。
柏木がザルであることは周知の事ではあったが、自分がグラスワインを一杯飲み干す間に軽く二本のワインを飲み切った彼とは身体の造りが違いすぎる。
控えめな照明が照らす室内は先ほどからもうずっと無音のまま。大きな嵌め込みの窓には、キラキラと輝くビルの明かりが眼下に広がって見える。


「なんだ、もういいのか?」
「はい…渋みが出てきちゃったみたいで」
「早く飲まないからだ」


口元に笑みを浮かべると、柏木はなまえのグラスを取り上げて残った赤い雫を一気に飲下した。
揺れ動く喉元を先ほどまでグラスの中で揺れていたワインが通り過ぎていったのかと思うと、何故かなまえの心臓が微かに音を立てた気がした。
どこか機嫌の良さそうな柏木をチラリと窺うと、空のグラスをテーブルの上に戻す彼の横顔は全くと言って良いほど顔色も変わっていなかった。


「…ダメだな、」
「?」


ふっと吐き出された吐息はどこか苦笑交じりで、どうしたのかと問う前になまえの顔を真正面から柏木の視線が捉える。
表情だけを窺うだけでは、柏木が素面なのかそうでないのかなどは見極めが難しい。
それでも、なまえの頬に添えられた彼の指先は普段よりも確かに熱を帯びていて、触れ合った肌越しに伝わるその温もりが柏木の身体中にアルコールが巡っている事を示しているようでもあった。


「部屋でお前と二人だけって言うだけで、何時もより飲んでないはずなのに酔った気がする」
「かし…」
「おいで」


何時もと変わらぬ柔らかな笑みを浮かべた柏木は、なまえの手を取ると彼女の身体をソファから引き剥がすように立たせた。
そのまま手を引かれて連れられたのは寝室で、なまえの身体は広いベッドの上に仰向けの状態で倒された。
急な事に慌てて身体を起こそうにも、なまえの上に圧し掛かった柏木は彼女の顔の脇に両手を付いてその驚いた表情をまじまじと覗き込んでた。


「か、しわぎさ…」
「なまえは…可愛いな」
「な…ん、っ」


言葉を紡ぐ前に塞がれた唇には、普段よりも乱暴に舌先が捩じ込まれる。絡め取られる舌先には、渋み交じりのアルコールが仄かに伝わった。
指先だけではなく舌先までもが発熱しているようで、柏木の舌が咥内で蠢くたびになまえの身体も上気してしまいそうだった。


「抱かせろ」
「っ、あ…」


キスに飽きたのか今度は耳朶を食みながら低く囁かれた声に、思わずなまえは目を閉じる。
そんな事をしても耳が塞げるわけでもないのに、その艶のある柏木の声に胸が張り裂けてしまいそうで、なまえは目を閉ざさずには居られなかった。
服の裾から強引に侵入を果たした指先が無遠慮に胸の膨らみを揉みしだき、艶っぽく吐息を漏らす唇は先ほどからなまえの首筋にキスを落とし続けていた。


「…あ、あれ?」


そう、確かについ今し方まではいつ服を剥ぎ取られてもおかしくない状況だったのだが、急激に重さを増した柏木の身体は突然ぴたりと動きを止めてしまった。
なまえの首筋に埋まるように押し付けられた鼻先からは、微かに寝息のような規則正しい呼吸が繰り返されている。
寝返りを打つ要領で柏木ごとなんとかくるりと身体を反転させ、なまえが圧し掛かる彼の身体を何とかベッドに沈めてみると、幼さすらも見て取れるような寝顔がそこには浮かんでいた。


「も…期待しちゃった…」


未だ速度を増して脈を打つ胸を押さえつけながらなまえが一息つくと、残念な気持ちが一気に込み上げた。
とは言え、酔い潰れてしまった柏木を拝める日が来るとは思っても居なかったなまえとしては、子供のように眠る彼の寝顔を前に口元が緩むのを押さえられなかった。
つん、と指先で柏木の鼻先を突いてみても、柏木が起きる気配は全く見られない。
一緒に並んで眠りたい気持ちを抑えると、なまえは柏木をひとり残してリビングに残してきた食器を片付けに戻るのだった。
Das Trinken

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