Lust | ナノ

両手にいっぱいのショップバッグをぶら下げて、今日一日の事を二人で喋りながらあさがおまでの道のりをなまえちゃんと帰ってきた。
すっかり陽が沈んで暗くはなっていたけど、なまえちゃんと一緒だったから平気だと思ってたんだけど…どうやらそうでもなかったみたい。
なまえちゃんがあさがおに来られるのは年に1,2回だけ。だから私は二人でたくさん買い物が出来て楽しかったんです。
お姉ちゃんみたいな、お母さんみたいな優しいなまえちゃんと一緒にいると、つい時間を忘れちゃうんだけど…やっぱりそれがいけなかったみたい。


「遅かったな…」
「あ…桐生さん」
「ただいま、おじさん」


あさがおの入口付近で動物園の熊みたいにうろうろしていたおじさんの目は、何となく怒ってるみたい。怒ってるというよりは、ソワソワしてた目って言うのかな。
やっぱり連絡もしないでこんな時間まで買い物してたのがよっぽど心配だったのかも。
…でも「こんな時間」って言っても、実はまだ19時をちょっと過ぎたくらいなのにな…。
おじさんはなまえちゃんの事になると、いつも以上に心配性になっちゃうんだから。なまえちゃんは「私だっていい大人なんだけどなぁ」って困った顔してるんだよ?おじさん、知ってた?


「あ、私先に中に入ってるね」
「…嗚呼」


こう言う時は、おじさんはなまえちゃんとゆっくり話がしたい証拠なんだよね。私ばっかりがなまえちゃんを独り占めしてたから、もしかしておじさん寂しかったのかも。
おじさんってああ見えて寂しがり屋さんなんだよね。そのくせちっとも素直になまえちゃんにそう言わないから、私がお膳立てっていうのをしてあげないといけないんです。
…なんちゃって。

***

「あの、桐生さん…?」
「……」


申し訳なさそうななまえの視線を受けて、言葉に詰まった。意外と目敏い遥は多分、玄関からあさがおの門前までを何度も行き来した俺の足跡を見つけただろう。
「おじさんは普段から心配性だけど、なまえちゃんの事になると余計に心配性になるんだから」なんて言われた事があるが…改めてその通りだと自覚させられる。
そんなに心配されるほどなまえが子供じゃないのは知っているし、遥だってここでは頼りがいのある存在だ。
判っちゃいるんだが…。


「心配した…」
「もう、」


困ったように顰められた眉根。だが、迷惑だという意味ではなくて、なまえのこの表情は俺に対して「仕方ないなぁ」と思っている時の表情だった。
少しだけ照れくさそうに、それでも過保護すぎる程の俺の行動をなまえは受け止めてくれた。


「心配させてごめんなさい。…ありがとう、桐生さん」
「いや…」


はにかんだ笑顔を向けられると、それだけで安心感に満たされる。無事に帰ってきてくれて良かったと思うよりも、やっと二人で話せる時間が出来た事への喜びが上回る。
子供のようだという自覚はあるものの、こればかりは自分でもどうしようもないものなのだ…。


「疲れてるか?」
「いいえ」
「それなら…少し海岸まで出るか?」


嬉しそうに頬を緩ませて大きく頷くなまえを前に、口元が緩やかに弧を描く。


「ちょっと待ってろ」


なまえの両手から荷物を全て受け取ると、早足になるのを止められないまま玄関まで足が進む。
玄関先で行ってらっしゃいと告げた笑顔の遥に咳払いをすると、なまえの元へと引き返す俺の足取りは小走りに変わっていたのだった。
Schwarzseher

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