Lust | ナノ

ただいまの言葉と同時にリビングの扉を開けた途端、峯は一瞬だけぐらりと身体を傾かせた。
一歩後ろに引いた右足でなんとか体勢を持ちこたえさせる彼の目には、胸元に飛び込むなまえの姿が映っていた。


「おかえりなさい、峯さん」
「…急にこういう事をするのは止めていただけますか」


俺がその勢いで転びでもしたらどうするんです?
呆れ顔で問う峯に対し、なまえはというと悪びれたふうでもなくニコニコと顔を綻ばせたままでごめんなさいと告げた。
まったく、反省しているのか居ないのか…。
そんな事を思いながらも、吐いた溜息にはどこか嬉しさが滲んでいた。


「…で?」
「?」
「……いつまでそうしているつもりです?」


腰に回されたなまえの両腕がぎゅうっと力を帯びてゆくのを感じながら、峯は努めて気だるげな雰囲気を漂わせてなまえに問いかける。
本心では触れられる事に安心感を感じているというのに。
素直になれない己の心を、それでもなまえならば全て受け入れてくれるだろうという根拠のない確信だけが峯を天邪鬼へと変えてゆく。


「なまえ、」
「まだ…」
「まだって…」
「もう少しこのままで居させてください」


ね?
下から峯を覗き込むような格好となったなまえにじっと見つめられ、図らずも峯の頬が熱くなった。
不意に視線を外してなまえの視線を逃れた峯の耳には、くすりと笑うなまえの吐息だけが確かに届いていた。


「峯さん」
「っ、なんです」
「こっち、向いてください」


左頬になまえの視線を痛いくらいに感じながらも、峯はなまえの求めには応じようとはしなかった。
柄にもなく照れた姿など、気恥ずかしくてなまえに向けられるわけなどない。
それでもなまえはそんな峯の事などお構いなしに、彼の身体に回した両腕に一層力を込めた。


「照れてます?」
「…煩いですよ」
「ふふ…大好きです」


甘えるように擦り寄るなまえに不意打ちで口づけてやると、今度はなまえの頬が目に見えて朱に染まる。
嗚呼、やっぱり彼女が大切で仕方がない。
声には出さず幸せな気持ちと共に噛み締めながら、峯はゆっくりとなまえの身体を抱き寄せた。
きらきらひかる

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