Lust | ナノ

季節はずれの桃は、恐らく高かったのだろう。
柏木の手から差し出されたその果実を受け取りながら、なまえはそんな事を考えていた。
いつもよりは少しだけ早い柏木の帰宅に嬉しさが込み上げたものの、直後に手渡された桃を手に今は疑問が浮かぶ。


「あの…どうして桃なんですか?」
「ん?桃はバラ目バラ科サクラ属なんだ」
「…?」


柏木からの答えに首を傾げるなまえの頭には、ぽんぽんと大きな手が乗せられた。
その口元には柔らかな笑みが浮かび、なまえの目には柏木がどこか楽しそうに見えた。
一体どういう意味の答えだったのか…謎々のような答えの意味など、幾ら頭を捻ったところで浮かぶ気配も見られなかった。


「判らないか?」
「はい…」


くすりと笑った柏木はなまえをそっとソファへと導くと、そのまま隣り合って座った。
やけに上機嫌なその様子になまえも嬉しく思いながらも、解けない答えがもどかしさを募らせる。
じっと柏木を見つめて答えを待つなまえをゆっくりと抱き締めた柏木は、唇が触れあいそうなほど近くまで互いの顔を寄せるとその距離で静かに囁き始めた。


「花見したいって言ってたのに、連れてってやれなかっただろ?」
「そう、ですけど…」
「だから、同属の桃で我慢してもらおうと思ってな」
「あ…それでわざわざ?」
「嗚呼、」


花泥棒は罪にならないなんて言うけど、やっぱり枝折って来るわけには行かねぇからな。
口角を上げて口元に弧を描いたまま、柏木の唇がなまえにキスを落とす。
触れただけで直ぐに離れてしまう柏木の温もりに恋しさを覚えながらも、瞳に映った彼の熱っぽい視線になまえは一瞬で欲情させられてしまう。


「か、しわぎ…さ、っ」
「悪い…お前を抱きたくなった」
「っ、ん」
「花見出来なかったお詫びにって、思ってたんだが…」


結局俺ばっかり、得してるな。
低い声が零す吐息が、なまえの首筋を掠める。
性急に求める柏木の両手が、なまえの服に手を掛けながら身体をソファへと沈ませてゆく。
鎖骨を撫で上げるぬるりとした柏木の舌先に蜜声を漏らしている隙に、なまえの視界には淡い照明が輝く天井が映し出された。


「柏木さん、っ…電気…」
「ダメだ」


暗くしたら、お前の顔が見えねぇだろ?
晒されてゆく素肌にひんやりとした外気を感じたまま、柏木の言葉になまえの身体の芯はじわりと熱を帯び始める。
手から離れた桃がころりとラグの上を転がる様を視界の端に捉えた後で、なまえはそっと瞳を閉ざしたのだった。
花泥棒

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